情報・システム研究機構 女性研究者活動支援室

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研究者紹介
2017/07/19

統計数理研究所 特任助教 伊高静先生

統計数理研究所
特任助教

伊高静先生
Photo by 広瀬慎也


 現在の研究について教えてください

 統計数理研究所に着任して1年ですので、これまで林学分野の研究をする中で蓄積してきた実データをいかに解析するか、多彩な解析手法を現在学びつつあるところです。これまで行ってきたのは木の年輪を解析する「年輪学」と地図上の情報を見やすく加工・表示するテクニックである「GIS」の扱いですが、広範な森林問題を解決するために統計数理的なアプローチ、特に数理最適化の手法を駆使できるようになりたいと考えています。

 大学卒業後、森林学を学ぶためにドイツへ行かれたということですが、なぜ修士課程から、ドイツへの留学を考えたのでしょうか?

 高校の頃に遡るのですが、私が通った都立北園高校というところは第二外国語が選択可能だったので、気軽な気持ちでドイツ語を選択しました。その後、大学受験や大学の一般教養でドイツ語を選択することが重なり、ドイツ語の学力とともに学習へのモチベーションも上がってきて、ついにはintensive courseまで受講したほどでした。一方、大学では林学を専攻したのですが、興味があった環境問題や林学はドイツが非常に進んでいるということを知り、たまたま学んでいた語学と留学先の候補が合致した訳です。加えて、当時のドイツでは前期博士課程はほぼ無償だったので、語学、興味、そして経済的な理由と、いくつかの条件が重なってドイツ留学を決めたと思います。

 ドイツ留学の印象を聞かせてください。

 私が学生時代に滞在していたフライブルグという町はドイツの南部で山が近く、自然好きな人が多く暮らしており、エコシティという印象がありました。バブル終了後の余韻が残った日本とは異なる、物欲的・ブランド志向とはかけ離れた素朴な生活に居心地の良さを感じました。
 しかし語学は本当に大変でした。大学院で学べるレベルに達するまで必死で勉強しました。1年の語学修行の後に大学院に進み森林学を学びはじめましたが、そこでもドイツ語の方言や、授業で頻発するラテン語に苦しみました。

 森林学を学ぶ環境として、ドイツと日本との違いはどう感じられましたか?

 日本で学際研究という言葉を頻繁に聞くようになったのはつい最近のことのように思いますが、ドイツの大学では、学際研究とは?なぜ学際研究は大切なのか?を学ぶ授業が私の留学当時からありました。そこでは、先生と学生の間で活発な意見が交わされていました。
 学生時代に楽しかったことで、エクスカーションという野外実習がありました。森林学の実際を学ぶために森を見に行くのですが、複数選択したうちの一つでは、ドナウ川に沿って1週間かけて上流から下流へ自転車で移動しながら、森を含めた川周辺の植生や土地利用のされ方を勉強しました。途中、農家の納屋やユースホステルに泊まったのも良い思い出です。また、真冬の森に集合して、ボールペンのインクが出なくなるほどの寒さの中、「今、目の前にある森、この森はどういう森か?あなただったらこの森をどう管理するか?」という問いに答えなければならないこともありました。学生は寒さのあまり、早く課題を終えて町に戻り、クリスマスマーケットのホットワインを飲んで体を温めたいという考えしかなかったのですが、実践的な課題に取り組むプログラムとしては優れていたと思います。
 また、懸賞論文をドイツ語で書いたことも思い出の一つです。私は地図を作るのが好きで、近所のシュヴァルツヴァルト(ドイツ語で「黒い森」)の一部をくまなく歩きまわり、どの道を通れば森の良い影響を受けられるか、フィトンチッドの多い針葉樹の区域だけでなく変化に富んだ景色を楽しめるようなルートを考えて、それについて述べた論文を書きました。しかし、地図を持っていながら、けもの道に迷い込んでしまうことも度々でした。

 ドイツ語で懸賞論文を書けたなんて、すごいですね。

 10年もいればドイツ語の読み書きはある程度出来るようになりましたが、問題は英語で、あなたの英語はドイツ語っぽいと人に良く言われます。主文、副文といった形で、ドイツ語的な骨格の文章を書いてしまいますし、実はドイツ語で考えて、それを英語に訳しているようです。英語が出来ない研究者はありえないと、ドイツで会社勤めをしながら、英語力向上のためカナダやアメリカへ行き、インターンとして働いた経験もあります。

 前期課程を修了して、すぐに後期課程への進学はしなかったのはなぜですか?

 経済的な面からも就職しなければという思いは強かったのですが、ドイツで学ぶうちに、研究以外のことを知らなくて良いのだろうかと疑問を持ったのが大きな理由です。ドイツでは大学の先生になる前に、インターン等の社会経験をすることが推奨されていたと思います。これまで私が受けた教育の中でも、実社会での経験がある先生の方が、学生に伝えたいこと、なぜこれを学ばなければならないのかという問いに対する答え、授業に対するモチベーション、いずれもはっきりとしていると思いました。森林学を学ぶうちに、一度この閉じられた学問の世界から出て、社会の動きを知りたいと考える気持ちが強まったため、まずは木材の国際貿易に関わる仕事に就きました。

 ヨーロッパやアメリカでの実社会経験を経た後、日本に戻られたきっかけは何でしたか?

 博士課程に復帰することを希望しつつ、勤め先を転々としながら、数年が経過しましたが、現在の夫と現地(ドイツ)で出会い、彼が海外赴任を終えて帰国する時に、私も決意して日本に帰国しました。知人誰もが、私が日本人と結婚するなど信じられないと言いましたし、1年足らずで離婚するだろうという予想がもっぱらでしたが、残念ながら(?)10年近く経った今も結婚生活が続いています。

 海外経験が長い日本人女性の中にはそのまま外国に定住してしまう方をしばしば見かけますが、よくぞ日本に帰ってきてくださいました、という感じです。帰国後、海外生活とのギャップが大きくて戸惑われたことはありませんでしたか?

 日本と外国のギャップというよりは、帰国と同時に結婚し、後に出産したことで、生活が激変したことの方が大きかったと思います。帰国後、夫の勤務先のある福岡に住みはじめました。以前にお世話になったことのある九州大学の先生の下で技術補佐員として勤めた後、九州大学の大学院博士課程に進学しました。33歳のときでした。まもなく第一子が生まれ、研究室に長い時間滞在できなくなって、研究生活に非常に不自由を感じました。研究に長い時間をかけられない私の研究の進度が遅々としていたので、予定通りに博士号を取得できるのか研究室のメンバー誰もが半信半疑でいたようですが、私の最後の頑張りに皆驚いて、論文や提出物などの修正に協力してくれました。おかげさまで、修了条件の論文2報を最終年度に通すことができ、年限以内で後期博士課程を修了しました。

 博士課程での研究課題はどのような内容だったのでしょうか?

 年輪の分析から森の成り立ちを調べる森林動態の研究を行いました。屋久島の森の歴史は、実は分かっていないことが多いのです。神聖な森とされ、神が許さないということで立ち入りを禁じられていたという言い伝えもありますが、一方で古文書には江戸時代の伐採の記録もあり、実際に人の手で切り倒された切株も残っていますので、完全な原始林ではないことが明らかです。実は記録に残っている以前にも屋久杉が切られた形跡があります。鹿児島にある神社の記録によると、古文書に残る記録以前の伐採による屋久杉材を使用していたことが分かっています。ですので、現在までにどのような頻度で、どのぐらいの本数の木が切られたのかは不明ということになります。
 現在は、屋久島は世界遺産ということで、樹木の伐採を含め人の手を入れることが禁じられていますが、現在の森が完全な原始林でないことを踏まえ、今後自然に任せたら現在の姿を維持できない可能性もあることを考慮して、人間による森林管理の可能性も検討するべきでしょう。遺伝子レベルでの多様性を維持したいと考えるか、自然の流れに任せて滅びるものは滅びても仕方ないと考えるのか、私達人間が何に重きを置くかによって、屋久島の森の将来が決まることを知って、長期的な視野に立って議論しなければならない。私たちはそういう時代に生きていると思います。
 博士号取得後、第二子を出産し半年の休業を経験しましたが、九州大学研究員として研究に復帰し、2015年12月から統計数理研究所で特任助教となり現在に至っています。

 福岡に勤務先があるご主人と離れ、二人のお子さんの世話をしながら単身赴任ということでしょうか。

 実母と同居し、育児のサポートをしてもらっています。私と兄妹を育てた経験があるだけあって、育児や家事の細かいところまで分かってくれる、一番の理解者で、強力なサポーターです。母の存在がなければ、現在のように研究は続けられなかったかもしれません。

 現在の統計数理研究所の利点を生かして、どんな研究の展開をしていきたいですか?

 現在の環境は、統計数理のあらゆる解析手法、特に数理最適化の手法を実際の研究に取り入れることのできるチャンスだと思っています。これまで農学部で林学をやってきて思うことは、林学は森林というキーワードで実にさまざまなテーマを包括する学問であるために、守備範囲が広く浅くなる傾向がありました。しかし、研究者を続けていくには、ひとつ「武器」になるものが必要だと自覚していました。幅広い知識を持ちつつも、これのスペシャリストだと言える何かです。
 統計数理研究所で日々接するのは統計数理を極めている優れた研究者ばかり、着任後すぐはそうしたレベルに達することはできないと精神的にもがいていましたが、近頃は自分の研究に役立つ、使える手法を見出すことが重要というスタンスに変わってきました。
 私の強みは解析したい実際のデータを持っていることだと、統計数理研究所の研究者仲間に言われます。実社会の経験から社会問題のいくつかに強い危機感を持っていて、その解決に取り組みたいという強いモチベーションがあることでは、他の研究者に負けないと思います。実データを解析した結果を理解できなければ、より適した解析手法を取捨選択することもできません。この研究所で得られる優れた研究者との人脈を通じて、今後の共同研究につなげていきたいですし、解析結果のフィードバックを行うことで、解析手法そのものの改良にもある程度貢献できるのではと考えています。

 例えば10年後はどのような問題に取り組まれているとお思いでしょうか?

 数理最適化の手法を使いこなせるようになってからは、日本国内と発展途上国における森林管理の問題に取り組みたいと考えています。数理最適化の手法は、かなり前から存在するにもかかわらず、日本国内の林業経営にはほとんど生かされていません。マネジメントプランを立てる手助けになる素晴らしい手法ですので、現場への橋渡し的な役割を担っていきたいです。
 また途上国において、森林計画を立てる人の不在は、世界的に見て最も深刻な環境問題を引き起こしています。数理最適化の手法で最適な解が出ますので、それに基づいて、どういう森を作っていきましょうか?と地元の人と話し合いながら計画を立て、長期に渡って関わりながら計画を見直していく、最終的に地元の人の理想とする森林をつくり、環境保全と森林経営の両面で満足できる形で世界の林業に貢献していくのが私の将来の夢です。

 最後に、教育面での抱負や、若い世代へのメッセージ等ありましたらお聞かせください。

 統計数理研究所での雇用は3年ですので、終了後は大学等の教育研究機関へ異動することになると思っています。
 研究所では学生の受け入れがわずかですので、将来は積極的に学生の教育に関わりたいと考えています。私は一般的な研究者と比べて若干多くの実社会経験をしてきましたので、多面的なものの見方をする訓練を積んできていると思います。学生に対する講義においても、専門分野の知識だけを教授するというよりは、より広い枠組みを伝えたいと思っています。例を挙げると、ある一つのニュースについて、メディアはこう報道しているけれど、違う背景もある、別な意見もあるということを、実際の例を挙げ、学生と一緒に考えながら、物事の本質を見抜く訓練をする、物事の多面性について考えるきっかけとなるような講義をしたいと思っています。その中に専門知識を位置付けることで、それを学ぶ本当の意味が分かってきます。

 お話、どうもありがとうございました。今後の一層のご活躍を期待しています。

 インタビューを終えて

 途上国の森林を地元の人との対話を通してつくりあげていきたいという伊高先生の言葉からは、現場を実際に見てこられた経験の蓄積からの力強さを感じました。実社会での苦労を重ねた上での問題意識をバネとして博士を取得されたことによって、これまで困難だった実業と学術研究との間の橋渡し的な役割を担うことができる希少な人材になられたものと思います。また学生の教育についても、日本と海外との文化的ギャップや学問の理想とままならない社会の現実のギャップに苦しんでこられたからこそ、ひるむことなく若い学生と向き合っていかれるのではと感じました。
 産業界と大学等研究機関との間で博士人材の流動性を活性化することは、文科省でも現在力を入れているようですので、伊高先生のように産業界を経験されている研究者の存在感は今後より一層高まっていくものと思います。現在の多忙な子育て期を乗り越え、5年後、10年後に、伊高先生が日本と途上国の森林管理を考える上で欠くべからざる人材として活躍されているように、情報・システム研究機構の女性研究者活動支援室としても全力で応援をつづけていきたいと考えています。

参照:「博士人材の社会の多様な場での活躍促進に向けて」

2017/02/06

統計数理研究所 データ科学研究系 助教 廣瀨雅代先生

統計数理研究所
データ科学研究系 助教

廣瀨雅代先生
 


現在の研究テーマについて教えてください

 「各地域や領域別の特性値への効率的な統計的推測法」についての研究を行っています。全国規模で行われた調査のデータを用いれば全国の平均等の推定値は信頼できるものであると通常は考えられます。しかしその際、同じデータをもとに市区町村などの細かな地域別の特徴も知ろうとする場合、それぞれの地域のサンプルサイズが小さくなりやすく、その地域の情報だけを用いた推定精度は低くなってしまいがちです。この状況に対して、ある条件下では、他の地域の情報を適切に借りることによってより精度の高い地域像を類推できるような推定手法が構築される一方、実践面ではこの方法に対するいくつかの問題も指摘されています。その問題点を解決すると同時に推定精度も損なわないような、実践面で取り扱いやすい新たな統計手法の開発を行っています。

統計学を志したきっかけは何でしたか?

 高校3年の夏休み、受験までの限られた時間を費やして数日間、ひとつの物理の公式を自力で証明しようと取り組んだことがありました。すぐ答えを見たり、公式を暗記する方が受験生にとっては時間の節約になり効率的であるのかもしれませんが、なぜそんなことをしようとしたのか?というと、今はよく知られている公式といえども元々は歴史上の誰かが証明したものなのだから、自分も挑戦してみようと考えたからです。結果的に自力で完璧に証明することは出来なかったのですが、自分なりに時間をかけて考えた上で答えを見たとき、その証明が非常にエレガントで、とても美しいものに思えたのです。
 その一方で、同じく高校生の頃ですが、SARS(編集注:重症急性呼吸器症候群、中国で発生し多数の死者を出した)が流行した際、薬が効くものという先入観が覆されて大変ショックを受けました。その時、新規のものを作り出す創薬にも魅力を感じました。結局、抽象的な数学の世界の魅力に惹かれて大学は数学寄りの学部に進学したのですが、大学3年の頃に、製薬会社で創薬の過程で統計学が不可欠であることを知り、数学と創薬、私がやりたかった2つのことの接点に統計学という分野があることを知りました。それが、統計学を学ぼうとしたきっかけでした。

すでに高校生の頃には研究者の大切な素質である自立心と粘り強さを兼ね備えていたのですね。本格的に研究の道に進もうと思われたのはいつ頃でしたか?

 学部の頃には統計学に魅力を感じていたのですが、当時、私が所属していた学科には統計学に関する講義がなく、ほぼ独学状態で大学院に進学しました。とても自由に研究ができる環境でゼミの発表準備等に打ち込んでいるうちにますます研究が楽しくなってきましたが、ひとりでやっていて行き詰まりを感じることもありました。そんな時指導教官からの勧めもあり、私のテーマに近い分野の研究が進んでいたアメリカへ留学をしました。その時はここでベストを尽くしても自身の研究テーマに目途が付かなかったら、自分には研究の能力がないと諦める覚悟でしたが、幸いアメリカで良い先生との出会いがあり現在に至っています。その先生とは今でも共同研究を続けています。

統計数理研究所の雰囲気はどうですか?

 研究環境はとても良いと思います。何より、同じ研究所内でも様々な分野を研究している方がたくさんいて、視野が広がります。研究所では、私は一人で黙々と考えたり、数値実験したり、思いついた数式を書いたりしていることが多いのですが、時折話し相手になってくれる様々な立場の方もいて何かと助けられています。

今後、廣瀨先生の研究分野はどのような面で社会への応用が可能になりそうですか?

 医学・健康の分野への応用は特に重要だと考えていますが、他にも様々な分野に適応が可能だと思います。少なくとも他国では、国で行われるような公的な統計の分野でも私が取り組んでいる問題が重要視されています。今後さまざまな分野での需要を把握することで、従来使われてきた統計的手法の問題点を見直すことが出来ると考えています。そのためには視野を広げ、多様な社会問題への取り組みを学んでいきたいと思っています。

将来はどのような研究に取り組みたいと考えていますか?

 アメリカ留学時に、社会的な課題として貧困という問題があることに気づきました。政府からの予算は限りがありますが、推定精度があまりよくない状態のデータを基に各地方に均等に予算を割り振ることは平等ではありません。こうした場合に、推定精度の向上というのは実際にとても有用だと知ることができました。そのためには現場の問題を的確に把握することが大切ですので、現在はそういったことも考えながら研究をしています。たとえば、先進国では当たり前に使っている計算機ですが、これに強く依存しすぎると、新興国では扱いにくいのではないだろうか…ということも考えながら研究をしています。将来は格差を是正する方向で、経済的困窮者により効果的に支援の手が届くよう、地域ごとに異なる貧困率等の統計的推測法の精度をさらに上げることによって、社会貢献ができることを望んでいます。

私の育児生活
2017/07/19

ロングインタビュー 准教授、主夫になる

准教授主夫になる

ロングインタビュー:准教授、主夫になる!〜3か月の育児休業の理想と現実〜

2016年1月から3月にかけて3か月間育児休業を取得された国立極地研究所の猪上淳先生に、育児休業とその前後の子育てにまつわる経験談を伺いました。奥様も常勤の 研究者をされており、共働きの研究者夫婦が育児期を乗り切るためにどのようなご苦労をされているのか、お伝えできればと思います。



―今回、育児休業を取得して子育てに取り組もうと考えたきっかけを教えてください

第一子の時は育児休業を取りませんでした。仕事柄、長期出張で家を不在にすることがあるのですが、第一子の乳児期と長期の観測航海が重なってしまい、約1か月半、妻は子供を保育園に預けながら通常勤務をしていました。私が不在の間、彼女がすべてを一人でこなすことは大変だったので、ベビーシッターのお世話にならざるを得ず、経済的にもかなりの負担でした。このように第一子のときに単身で苦労した妻から、次(第二子の時)は育児休業を取ってほしい、と言われていたこともあり、第二子の時にはしっかり3か月間の育児休業を取ろうと考えていました。
最近読んだ日本経済新聞の記事によると、育児休業取得率に関する2015年の報告では、育休を取得する男性の4人に3人は有給休暇でも対応できる日数を育児休業に充てているという状況だそうです。(『男性の育休取得日数は56.9%が5日未満で74.7%が2週間未満に収まる。年休でも対応可能な日数である。』(労働政策研究・研修機構主任研究員 池田心豪「男性の育休取得率最高 道半ば 年休で育児も」2016年8月6日 日本経済新聞朝刊)
第二子が産まれたのは2015年の4月でした。妻の育児休業は2016年の3月まで取得が可能でしたが、2015年の12月までとし、入れ替わりで私が2016年の1月から3月までの3か月間育児休業をすることにしました。家事・育児を私が一手に引き受け、完全に「主夫」となったわけです。


―休業される前に、職場の上司・同僚の同意を求める際に心がけた点についてお聞かせください。

教育面では、博士課程の学生に対しては育児休業前に博士号を取得できるよう配慮し、また、講義については2016年度は後期に開講する科目を担当できるように依頼をしました。また、例年秋にある観測航海も、2015年は代わりの研究員に行ってもらいました。2016年、2017年も長期出張はしない予定です。2018年(第二子が3才になる)までの間は、できるだけ海外出張は控えたいと思っています。(※とは言いつつも復帰後の半年間で4回の海外出張をしてしまいました)
職場の理解については、3か月間育児休業を取ると言うと「長い間休めていいね」と言われることもありましたが、これから子育てに取り組もうという若手世代からは「すごいですね」という反応もありました。概して職場の理解はあると思いますが、育児休業制度に関してはよく知られていないというのが実情だと思います。


―育児休暇と育児休業との違いについて、誤解が多いということですが。

この2つの言葉はよく混同して使われているようです。正しくは育児「休暇」という言葉はなく、相当するのは職員就業規則に定められた有給休暇の一種である特別休暇になります。一方、育児休業では職場からの給与はありません。雇用保険から育児休業給付金を2ヶ月に一度支給されますが、休業直後2ヶ月間は収入が無い状態で、若い世代にとっては経済的に厳しいこともあると思います。私は今回、有給休暇を使わず、育児休業を取得しました。有給休暇は温存し、育児休業後の不測のときに備えています。急な病気や怪我など、子育て中には突発的に仕事を休まなければならない事態が出てきますので。(※復帰後半年間で看護休暇を含む10日間をお休みさせていただきました)


―育児休業中の一日のおおまかなスケジュールを教えてください。

妻が朝6時前に出勤した後、私は6時に起床し、子供に食事をさせ、9時には上の子を保育園に登園させます。午後4時に迎えに行くまでは下の子と2人きりです。ミルクをあげて寝かしつけ、その隙に布団干しや部屋の掃除などをします。昼食は子供中心で、自分の食事はおろそかになりがちでした。午後に下の子が昼寝をする間に職場のメールを流し読みし、簡単な返事をできるものだけ処理をします。妻は夕方5時に帰宅します。そういった毎日です。さらに、子供が風邪をひけば小児科や耳鼻科に通ったり、3歳の上の子も活発になる時期だったので、怪我をして整形外科に通院したりという時期もありました。


―想像する以上に多忙な毎日だったようですが、育児休業中、仕事のことを考える時間はあったのでしょうか。

平日の昼間、子供が寝ている間には仕事のことを考えたり、メールチェックをする時間もありましたが、1日の中でそのような時間は1時間程度しかありませんでした。論文査読や海外の学会の招待講演の依頼等もありましたが、時間的に対応できませんのですべて断っていました。しかし、私の育児休業期間が年度末に重なったこともあり、予算関係の資料作成や、研究員採用の面でどうしても対応せざるをえない仕事もありました。非常に重要だった案件の1つとしては、私がある研究プロジェクトの1テーマの実施責任者であったため、部下と仕事の進捗状況を確認するだけでなく、関係者とスカイプ会議をしなければなりませんでした。そんな時は、タイミングを見計らって子供に食事やおやつを食べさせ、しばらくして眠くなった子供を寝かしつけ、その間にスカイプ会議をしたりと工夫していました。
こんな訳でメール一本送るのにも相当苦労していたのですが、ここに育児休業の理想と現実が見えてきます。当機構の育児休業等に関する規定では「育児休業をしている職員は、職員としての身分を保有するが、職務に従事しない」とあります。これはすなわち、育児休業中は仕事をせずに育児に集中しなさいということだと思うのですが、実際には完全に仕事を意識しないというのは難しかった ですね。これは、当事者が育児に専念すると決めていても、職場の人間が育児休業制度の意味するところを理解していないと解決できません。また、音信不通で対応しないでいると復帰後に意図しない不利益を被る可能性も否定できません。いまはメールで簡単に仕事を振れる時代です。子供が昼寝している間にでもできるだろうという考えが、ギャップを生み出します。フリーの1時間を作るのがどんなに大変なことか!生後9ヶ月から11ヶ月にかけては、ハイハイからつかまり立ちへと身体能力が急激に向上してきますので、目が離せなくなり、さらにお昼寝の時間も減ってくるため、私の自由時間もそれに連動して減ってきます。


―海外の研究者とのやり取りの中で、育児休業取得について話したことはありますか。

私が育児休業を3か月取った、と言うと海外の研究者からの評判は良かったですね。共同研究で知り合う海外の研究者にはノルウェー等の北欧の研究者が多いのですが、彼らは普段から夕方4時に仕事を終え、帰宅後は家族との時間を過ごすのが通常です。制度的にも、両親が交互に育児休業を取る方が経済的にメリットがある仕組みになっているようです。


―育児休業を取ったことについて、良かったと思える点はありますか。

第二子の育児は、第一子の経験からおおよその発達段階を予測でき、子育てそのものに慣れてきているというメリットがあります。そもそも(自分で言うのもなんですが)普段から育児・家事に注力していますので、「乳児食を作るのがこんなに大変だった」とか「妻がこんなに家事で苦労していたのか」などのような、新米パパのような発見は正直ありません。ただ、時間の大切さについては敏感になったと思います。また、第二子につい目がいきがちなのですが、第一子との時間をいつもよりも長く持てたというのは良かったと思います。保育園から帰ってきたあとは、(夕飯までの中途半端な時間をどのように使うか苦慮した結果)図書館に行くことが多く、いまでは絵本が大好きになっています。
あとは、保育園の先生や園児たち、小児科の先生などと顔見知りになり、頻繁に情報交換できたのも良かったです。
職場復帰後の現在はごく淡々と日々の生活を送っています。7時15分に朝一で保育園に2人をあずけるのが私の役割で、毎日が時間との戦いですが。平日の睡眠時間は5時間を切っており、毎日くたくたですが、普通に仕事に行けることは家族が健康な状態である証でもあるので、実は幸せなことなのです。育児休業体験を含めて、現在の育児生活の本当の効果は、10年後ぐらいに振り返ってみないと分からないものかもしれませんね。



毎日のハードスケジュールで心身とも疲労困憊されているのではと心配になりますが、「淡々と」というお言葉から、最近よく耳にするようになった「マインドフルネス」を連想しました。激しい喜怒哀楽ではない中庸の精神状態を保つことで、お子様の急な病気等の突発的な出来事にいつでも対応可能な心持ちを実現されているのでしょうね。本日は貴重なお時間をありがとうございました。




2017/07/19

男性育児休暇利用者の体験記(H26)

今年の5月初めから6月末までの2か月間、育児休暇を取らせていただきました。 伝え聞いたところによると、私が本機構における育児休暇取得第一号ということですので、育児休暇を取ろうと考えている男性職員とそういった方々を取り巻くみなさまを中心に、わずかですが私の体験をご説明できればと考えています。

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 私が育児休暇を取ろうと思ったのは、私の父の手術予定日と妻の出産予定日が重なってしまった上に妻の父の病状も思わしくなかったため、私の両親や妻の両親からの援助を期待できなくなったことがきっかけでした。 長女(現在2歳)が生まれたときに、妻の両親とともに家事・育児に参加していたこともあって、多少なりとも家事・育児のたいへんさもそれなりにわかっているつもりでした。 そのようなことから、24時間体制で妻に育児をさせるのは心身とも辛いだろうと思い、育児休暇取得について樋口所長と椿副所長にご相談させていただきました。 男性職員の場合、社会的な責任や体裁を気にして育児休暇を取るのをためらうことが多いかと思うのですが、私の場合、ある会社で育児休暇を取った友人(彼もその会社では育児休暇取得第一号だそうです)がおり、彼のアドバイスが私の背中を押してくれました。 樋口所長には「育児休暇を取るなんてだめだろうなぁ」と半ばあきらめた状態で相談させていただいたのですが、予想に反して「どうぞ、どうぞ」といった軽いトーンで返事をされたため、逆に拍子抜けしてしまったというのが実際のところです。  さて、「育児休暇」といった場合、「休暇」という二文字だけが強調され、「さぞかし自由な時間があるだろう」と誤解される方が少なくありません。 何事も同じだと思うのですが、”まじめ”に育児に関われば、これほど忙しいものはありません。 私の場合、育児休暇中は、食事の準備・娘のお風呂・長女の面倒は私が、これら以外の家事と次女の面倒は妻が担当し、本の読み聞かせ・部屋の掃除は2人でやることにしていました(この役割分担は現在も続いています)。 役割分担をしているとはいっても対応できないこともあります。 その場合は手の空いたほうが担当します。 特に、娘の面倒については「役割分担はあって無きが如し」ですので結局は2人でやることになります。 深夜になれば、赤ちゃんはまるで親の愛情を試しているかのように大声で泣きますし、太陽が昇れば長女が大人の都合とは関係なくおんぶや抱っこをせがんできます(研究する時間はもちろんのこと、まともに寝る時間すらありません)。 そんなとき、おなかがすいたのか、おしっこをしたのか、さびしいのか、甘えたいのか、遊びたいのか…妻ともども悩み、心身ともに滅入ってしまうこともありました。 失敗なんて日常茶飯事のことです。 また、研究職という職業柄、研究所内の仕事以外にいくつかの所外の活動(学術活動)も行っているため、主だった学術学会・団体・共同研究者には育児休暇中であることを伝えておいたのですが、それにもかかわらず仕事を振ってくるところがあり、妻ともども困り果ててしまうことがありました。 このときには、研究者が育児休暇を取る場合には、学術学会・団体にも育児休暇の目的を十分に理解していただかなくてはならないと身に染みて感じました。

 このように、育児休暇を取得させていただいてはじめて育児がいかに重労働であるか、そして周囲の方々に理解していただくことがいかに重要であるかを認識させられたわけですが、この重労働を補って余りあるほどの喜びを与えてくれるのも育児だと思います。 育児休暇中は、昨日までできなかったことが今日できた、そして明日はどんなことができるのだろう…とワクワクした日々が続きました。 育児休暇中は、生まれたばかりの次女は日が経つにつれて表情が豊かになっていき、長女の場合にはうまく声に出せなかった言葉が次第に話せるようになっていくのが手に取るようにわかりました。 また、毎日食事を作っている私にとって、長女がおいしそうにご飯を食べて、さらにおかわりまでしてくれた時には最高に幸せな気分になれましたし、散歩に連れて行くたびに大はしゃぎする姿を見るたびに私も嬉しくなりました。 他人から見れば大したことのないことかもしれませんが、それが幸せに思えるのも育児に参加しているからだと思います。

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 「育児ノイローゼ」、「育児放棄」、「放置っ子」といった問題が注目されている現在、育児休暇は、こういった問題を見つめ、子供を含めて家族全体との「距離」を縮めるうえで大変有意義だったと感じています。 育児は本当に大変です。 これを言葉にするのは簡単ですが、育児に参加しなければ実感できません。 主婦(夫)業も”まじめ”にやるとこれほどたいへんなものなのかと思いもしませんでした。 育児休暇から復帰してからは、妻の協力なしに家事・育児と仕事の両立させるのはたいへん難しいものであることも身に染みてわかりました。 一方、育児休暇をとったおかげで、子供が「初めて○○ができた瞬間」を見たときの感動を体感することができましたし、仕事に復帰してからは、帰宅するたびに「おとう!」と言いながら満面の笑顔で私のほうへ走ってくる長女の姿を見たときの気持ちなど、言葉では言い表せない嬉しさや楽しさをたくさん感じるようになりました。 また、赤ちゃんが大人の理解をはるかに超えたところで感情を表現していることを実感できる貴重な時間を与えてくれたのも育児休暇だと思います。 この気持ちをみなさんにわかっていただくには、(育児休暇を取るかどうかとは関係なく)積極的に育児に参加していただくしかないと思うのです。


男女共同参画推進コラム
2015/03/14

第十二回 家庭内ワークシェアリングのすすめ

情報・システム研究機構 統計数理研究所 准教授 黒木 学

            平成26年3月5日

 日本では「家事と子育てはお母さんの仕事」という固定概念を持つ男性が多いせいか、家事と育児をお母さん任せにしているお父さんが多いのではないでしょうか?家庭の方針は個々の家庭で決めることなので、(社会事件にでもならない限り)どういった方針が正しいのか・間違っているのかを第三者が判断することは、いわゆる「大きなお世話」かもしれません。そうとはいっても、核家族化が進む一方で、女性にも社会貢献が求められるようになった現在、家事も育児もお母さんの仕事と決めつけてしまうと、女性に肉体的にも、精神的にも大きな負担をかけてしまうことは、みなさんにもおおむね同意していただけるのではないでしょうか。こういった女性の負担を軽減するためには、男性の積極的な家事・育児参加、すなわち家庭内にワークシェアリングを取り入れることではないかと考えています。

 家庭内ワークシェアリングにも、完全に分業体制にするケースや、ルールを設けないで気がついたほうが率先して家事・育児を行うケースなど、いろいろなスタイルがあり、それぞれ長所も短所もあります。我が家では、この二つを組み合わせたような家庭内ワークシェアリングを実践しています。その感想・経験として、家事も育児も「完全にお母さん任せ」にしている男性と比較して、仕事の進み具合が若干遅いなぁ、と感じることがときとしてあります。その一方で、無意識ながら日常生活で時間の使い方を工夫するようになるため、結局のところ、大きな有意差はないように思います。また、普段から家事や育児に接しているため、お母さんに予期せぬ事態が起こってもあたふたすることなく、家事・育児はもちろんのこと、仕事にもおおむねうまく対応できることは大きなメリットではないかと思います。そして、なんといっても、家庭内ワークシェアリングをとおして子供の笑顔に触れる機会が増えることは、味気ない日常生活に、豊かさ、安らぎ、そしてうるおいと与えてくれます。このことは、「完全にお母さん任せ」にしている男性には、なかなか経験することのできない感覚ではないかと思います。

 家庭内ワークシェアリングがうまくいく前提として、「男性と女性がともに協力して社会貢献を行う時代がきている」ことを社会全体が理解していること、そしてお父さん・お母さんがともに「お互いを思いやりながら家事・育児に積極的に参加する」という意識を持つことがあるかと思います。現在のところ,男女共同参画という考え方がまだ浸透しておらず、社会からの理解も十分とはいえないように思います。そんな状況ですが、我が家では今のところ家庭内ワークシェアリングをそれなりにうまく実践できていることを考えてみると、みなさんもとりあえず試してみるのは「あり」なのではないか、と思う今日この頃でした。
 

2015/01/20

第十一回 女性研究者の現実と模索

情報・システム研究機構 統計数理研究所 准教授 瀧澤由美

            平成26年1月19日
 
 男女共同参画委員の方々が問題に真摯に向き合って下さっていることに触れ、大変有り難く感じました。そこでこのコラムで私に求められているは、女性研究者が置かれている現実とその中での模索について知ってもらうことではないかと考えました。研究者で、母親で、父の介護と、やらなければならない仕事はいつも数多くあるので、いくつかの項目について書いてみます。

-情報化に支えられて、でも15分早ければ 
 現在、情報ネットワークの高度化と普及によって、時間と場所を選ばずに仕事ができるようになりました。研究には理論と実験、応用など多面性がありますが、特に理論系の仕事はインターネットやクラウド等の情報ツールに支えられ、とても仕事がしやすくなりました。これは女性のみならず、男性もワーク・ライフバランスを考えた仕事の仕方をするためには有効です。情報インフラの整備と発展は今後も期待できますから、これらを利用するための支援があると有り難いです。 
 一方で重要となってくるのは研究者同士の対話です。特に共同研究等の打合せはメールでは誤解を生む事もあるので、やはりface-to-faceでなければ困難です。しかし男性研究者は仕事の後の仕事(つまり家事)がないためか、時間を無意味に引き延ばすのは困りもの。全力で働いた後に、家に飛んで帰って大至急夕飯を作ることの大変さといったら。それでも作れる日はラッキーで15分遅かったばかりに、子どもはコンビニ弁当を買ってきて食べていたということも。これには事前に打合せ内容のメモを印刷物で用意し、効率化による時間短縮を図っています。

-先人の努力を忘れない
 学会でイスタンブールに行った際、そこで出会った女性研究者が「トルコでは女性の権利があまり認められていない、女性参政権が認められたのもとても遅い。」というので何年に参政権を得たのか聞くと、1934年だというのです。日本は戦後ですからもっと遅い1945年と言うととても驚いていました。しかし、忘れてはならないのはそれまでになされた多くの努力で、市川房枝氏らによる運動により婦人参政権の法案が1930年に衆議院を通過したのですが、貴族院で廃案となっています[1]。私にとって身近なのは1986年の男女雇用機会均等法です。1984年に入社し2年目のことで、女性でも研究所に配属されることを当たり前のように感じていましたが、先人の努力を忘れないようにしたいと思います。

-次の世代に伝えること
 娘を持ってから、母の言っていたことを思い出すことが多くなりました。女の子は何でもできなければなりません。学校では勉強、家ではきれい好き、ピアノ、習字、筆まめで、大きくなったらご飯くらい作れて当たり前です。私の苦手なこれらの能力は私の母の世代では、お嫁さん、ひいては母親になるために必要なことであったと思います。 
 しかし、今、男女関係なくひとりひとりが自分の衣食住を含めどこにいても生活を営める能力をもつことが求められていると思います。研究者にとって住む場所というのは研究テーマ程、重要な要素ではありません。研究に必要な場所ということで決められることが多いと思います。次世代を担う子ども達には、世界のどこに住んでも健康を保ち、異文化を有する人々の中でも楽しく暮らせる能力を身につけてほしい。そうすればどのような仕事をしていてもきっとよい人生を送れると思います。そして、生活の厄介ごとをいわゆる主婦に押しつけるのではなく、それぞれが得意なことで補い合って豊かな社会を作って欲しい、それを伝えることが母の世代の努力に報いることになると思います。

[1] 市川房枝 私の履歴書ほか,日本図書センター,1999年02月.
 

2014/12/22

第十回 小さなことからコツコツと

情報・システム研究機構 事務局 総務課総務係長 水谷 彰

            平成26年12月19日

最近、「イクメン」という言葉が、新聞等でちらりほらり出て来ています。男性の育児への参加の推進、配偶者との家事分担や女性の気持ちになって考えてみる勉強会など、様々な取り組みが行われているようです。

少し前のことですが、「妊婦さん」の気持ちになるということで、コルセットのようなベルトをつけて家事等を行うとどうなるか?ということを体験する機会があり、やってみるとこれがなかなか、「しんどい!」通常の動きもさることながら、思うように動くこともしづらい。このような状況で、家事、仕事などをこなすということは、なんと凄いのだろうと感心し、偉大なことだとしみじみ思いました。

申し遅れましたが、私は、平成26年度から男女共同参画推進委員会のオブザーバーをさせて頂いております。オブザーバーの立場でございますので、委員の皆様とは、ちょっと違う点もあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

大学職員として勤務しておりました時に、少しだけ学内保育園の手続関係の事務を担当しておりました。その際に感じましたことは、「ユーザーのニーズ等を把握しながら的確に分析し、最適な支援を行う。」ということが大変重要なのだと気づかされました。もちろん、様々な条件などで、すべてが整うということではありませんが、「基本姿勢」として考える上では大事ではないかと考えます。併せて、女性研究者は、結婚や出産、育児などのライフイベント、そして研究、家事等で、目まぐるしい日々を送っているので、様々な場面での「支援」や「相談体制」の機会がたくさん出来るという事が、結果として女性研究者の研究を支援する大きな成果に繋がるのではないかと思います。また、男性の方々に対しても、「相互理解」、「相談」、「相互協力」といった部分で、長期的な視点で、更に一歩進んだ形で対応できる環境づくりを共に進めていく必要があると思います。

今年度、情報・システム研究機構では、女性研究者研究活動支援事業が採択され、新しい支援体制を構築し、新たな一歩が始まります。その歩みは、どのようなものになるのでしょうか?より充実した研究者支援に向かって、微力ではございますが共に歩んでまいりたいと考えております。
 

2014/12/10

第九回 Women’s Forum Global Meetingに参加して

情報・システム研究機構 国立情報学研究所 新井 紀子

            平成26年12月8日

 ここ数年、国際的な女性フォーラムが盛んに開催されている。その中でも、アメリカを中心に開催されるInternational Women’s Forumとヨーロッパを中心に開催されるWomen’s Forumは二大国際女性フォーラムとして多くの参加者を集めている。この度、Women’s Forumが初開催の地フランス ドーヴィルで十周年のグローバルミーティングを開催するにあたり招待講演者としてお招き頂いた。2011年から国立情報学研究所を中心に進めている「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトが、ウォールストリート・ジャーナル、ニューヨーク・タイムズ等で紹介されたことが事務局の目に留まったらしい。女性ばかりの、しかも研究集会ではないフォーラムは初めてのことであるし、過去の招待講演者を眺めると錚々たる顔ぶれが並んでいるので恐れをなしたが、貴重な機会と思いお受けすることにした。何でもWomen’s Forumが日本の女性研究者を招待するのは今回が初めてだということで、事前にわざわざインタビュアーを派遣して下さった。プロジェクトの概要以外にも、日本という社会における女性の地位がOECD諸国の中で最低レベルにある国で、しかも、AIという男性優位の研究環境の中でプロジェクトを率いるのはどのような気持ちか、など多岐にわたる質問を受けた。様々な研究会でも政府の委員会でも、男性の中に自分一人が女性という環境に慣れっこになっていたが、そのことが異常な事態であることを再認識せざるを得なかった。

 Women’s Forumの特徴は、講演はプレゼンテーション形式ではなくインタビューまたはディスカッション形式で行われるということ、また参加者間のネットワークビルディングにその多くの時間が使われるということにあった。風光明媚なドーヴィルの高級ホテルを三つも借り切って行われるという規模に度肝を抜かれていると、「誰と知り合うべきかターゲットを絞らないとあっという間に最終日になってしまうわよ」と隣の席のイギリス人から忠告を受けた。ちなみに彼女は、現在もまだアフリカを中心に28か国以上で行われているFGM(女性器切除)をやめさせる活動をしているNPOの代表だという。「FGMをやめさせるのはとても困難なの。彼らはなぜFGMを続けるかについての理由をいくつでも考える。宗教や文化の多様性だとか、女性が進んで受け入れているだとか。欧米に赴任してくる教育を受けた外交官でさえ娘にFGMを受けさせることがある」。世界には日本では想像もつかないような多様なニーズとコンフリクトがあり、NPOやNGO、さらに企業家たちが縦横無尽に行き来しながら問題解決を図っている。それは世界経済に不可欠な一部なのである。彼女たちにとってこのような女性フォーラムに出席し、人々に活動の必要を訴え、支援者やスポンサーを獲得することは社交などではなく正に仕事の中心的課題なのである。特別講演者のIMF専務理事のラガルド女史をはじめとして、全員が快活によく喋り、美しく着飾り、そして何より聡明で正義感が強い。世界最大級の広告代理店パブリシスのCEOであるレヴィ氏が、インタビュアーであるワシントン・ポストのウェイマス女史にピンクの椅子を譲ると、会場から大きなブーイングが起こる一幕もあった。

 「ロボットは大学入試を突破できるか」と題した私の講演は、そういう中で異色ではあったが、GoogleやPayPalといったIT企業やジャーナリストに関心を持って頂けたようであった。フランスのあるジャーナリストからはAIやロボットが及ぼす社会的影響についての記事をぜひ書きたいと追加取材の依頼も受けた。

 講演の最後に私は一枚の図を聴衆に提示した。それは、人工知能学会が発行する2014年1月1日号の学会誌「人工知能」の表紙の画像である。背中にケーブルをつけた女性型アンドロイドが箒を手に掃除をしているイラストで、これにより人工知能学会は女性蔑視との非難を浴び公式に謝罪に追い込まれた。一方、これが宣伝効果となったのか今年人工知能学会は会員数と読者数を大きく伸ばしたという曰くつきの一枚だ。「私は『そのような国』で、このAIプロジェクトを率いている」というと会場からため息と拍手が起こった。私は特に自らの見解を述べる必要を感じなかった。なぜなら、学会誌がそのような図を表紙に採用することは完全に「アウト」であることの合意がそこに存在したためである。

 グローバルスタンダードでは「アウト」であるにも関わらず、それを採用する様々な理由を、社会的に優位を手にした側が主張する——そういう意味では私たちの社会は未だFGMの在る社会とそう変わりないのである。
 

2014/11/26

第八回 日本における男女共同参画社会の模索

情報・システム研究機構 URAステーション 
情報環境担当チーフ 河瀬 基公子 
            平成26年11月25日 

 2013年11月13日から3日間の日程で、アメリカのワシントンDCにおいて2013 Gender Summit 3 –North Americaが開催されました。Gender Summitは男女平等を促進し、効果的研究とイノベーションを促進するにあたって障壁となっている男女共同参画にかかる諸問題の理解を深めるための国際的会議で、3回目の本会議は300名を超える大学や研究機関等の関係者が世界各国から参加しました。
 
 最も印象に残ったのは、無意識の偏見に関するものです。マガーク効果(McGurk effect)を取り上げ、見たこと、聞いたことだけでなく、脳内で全く別のものを作り上げ、それによって判断されることがあると説明されていました。マガーク効果とは、例えば、人が「ガーガー」と言っている映像と「バーバー」と言っている音を同時に視聴すると「ダーダー」と聞こえるというように、全く別の音として認識する現象です。 
 本会議では、人間の思い込みがどのような影響を与えるのか、無意識に人間の脳で作られているイメージについて、社会学的実験に基づいた対応の検討がなされました。例えば、人事採用検討の際に、履歴書の名前を隠して採否を検討した場合と、名前を記載して(男女を明確にして)採否を検討した場合、名前を記載して採用を検討した場合の方が、女性の採用率が低くなることが示されました。また、同じ履歴書内容であっても名前の欄に男性の名前を記載した場合と女性の名前を記載した場合では男性の名前を記載した方が採用率は高くなることも示されていました。このような無意識の偏見に関する問題を乗り越えるためには、まず無意識の偏見があるということを認識することが重要であり、例えば、採用担当者への研修などが効果的であるとのことです。
 また、リーダーシップの多様性に関するセッションでは、アメリカ及びヨーロッパでは博士号の50%が女性に与えられているにも関わらず女性管理職の数は少なく、主導権は依然として男性にあることを指摘され、女性のリーダーを増やすためには個々人ではなく、社会全体の意識改革が必要であるとの意見もありました。
 
 男女の身体的違いについては、インフルエンザの発病等において男女差に有意性があるという発表がありました。その中で、実験動物についてもふれられ、雌のマウスを使うことがあまりないので、今後は実験動物の雌雄についても気を配る必要があると主張をされていました。
 その後2014年5月にアメリカの公的資金提供機関でもあるアメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)が、近々、外部資金申請者には使用した実験動物や細胞の性別のバランスを求めると発表しました。少なくとも雌雄どちらの実験動物を使用したのか記載が必要になるとのことです。研究者は繁殖の関係で雌の動物を実験に使用しない傾向にあり、雌の動物について理解が不足している恐れがあるとのことです。(Science vol344 16 May 2014)Gender Summitでの発表後、これほど早く制度化の検討がなされる、アメリカのスピードに驚きました。今後、アメリカにおけるルールが日本における研究に大きな影響を与えることも予想されます。

 現在、欧米諸国と比較し、男女共同参画が進んでいるとは言えない日本において、海外の取組を把握すると共に、日本においてどのような対応が効果的であるか検討し、実施することが必要だと考えます。

<参考>
Gender Summit
http://www.gender-summit.eu/

"Needed: More Females in Animal and Cell Studies" (Science vol344 16 May 2014) Jennifer Couzin-Frankel
http://www.sciencemag.org/content/344/6185/679.summary

“Policy: NIH to balance sex in cell and animal studies” (Nature 14 May 2014) Janine A. Clayton& Francis S. Collins
http://www.nature.com/news/policy-nih-to-balance-sex-in-cell-and-animal-studies-1.15195
 

2014/10/28

第七回 理系女子の作り方

情報・システム研究機構 URAステーション 
情報環境担当チーフ 河瀬 基公子 
             平成26年10月28日 


 私は平成24年度から男女共同参画推進委員をさせて頂いております。それまでは男女共同参画とは、育児と仕事の両立の壁乗り越えて職場に生き残ったママさん管理職が、自らの経験をもとに女性教職員が働きやすい職場環境を整備するものかとイメージしておりました。私は、管理職でもなければ、出産も結婚も介護も経験していません。ライフイベント中の女性の苦労は想像するのみの私がなぜ、男女共同参画推進委員にお声かけ頂いたのか、わかりませんでした。
 
 私は理系女子で、長い間、いわゆる男性社会にいました。小学生の頃は、電子工作やゲームプログラミングの魅力にとりつかれ、イベントに連れて行ってもらうと必ず司会者から「女の子がいました!」と言われ、インタビューを求められました。中学、高校と進むにつれて、学校の先生方からは、女子には不利だから文系に進むように何度も説得されましたが、全く意に介せず、そのまま理工系に進み、大学院に入学の際には研究室の教授から「研究室始まって以来の女性です」と言われました。就職しても女性職員は総数の1割程度の職場で、男性職員と出張に出かけると、遅れを取らないように小走りでついて行き、お昼ご飯も同時に食べ終わるように必至に食べ続けるのが当たり前の日常を過ごしていました。
 
 男女共同参画推進委員となり、独立行政法人国立女性教育会館主催の平成24年度「大学等における男女共同参画推進セミナー」参加させて頂きました。初めて受けた男女共同参画関係のセミナーで、松村泰子東京学芸大学前学長のご講演に衝撃を受けました。理系分野の学力について、男女間での有意性はなく、文系に進むか、理系に進むかは、環境に大きく依存するとのお話しでした。女の子が、ドライバーを持ったり、蛍光灯を変えようとすると、顔に傷がつくといけない、危ないからと取り上げる家庭が多く、男の子の場合は感謝の言葉を投げかけるというような環境が理系女子を少なくしているとのことでした。松村先生は、理系女子の多くは一人っ子で、本心では男の子が生まれてきて欲しかったと思っている父親によって、男の子のように育てられていたことが多いと指摘されました。
 自分の事を振り返ってみると、私が小学生の頃、誕生日プレゼントにお人形ではなく半田ごてをおねだりしたとき、両親は何も言わずに買い与えてくれました。周囲からは変人として扱われ続けた私ですが、理系分野に興味を持つことができたのは恵まれた環境にも理由があったと気がつきました。
 
 松村先生のお話では、小学校での理科の実験、自然教室での体験など、少し工夫することで女の子が理系分野に興味を持つようにすることは可能とのことでした。
 男女共同参画では、ライフイベントの経験に基づき、職場環境を改善することも大切ですが、男女共同参画推進委員となってからは、女性研究者を増やすために機構として実施可能なことを検討することも大切だと考えるようになりました。長期的な視点から、理系女子を増やし、女性研究者を育成する、裾野を広げることにも貢献したいと考えています。

 

2014/09/02

第六回 科学的データによる男女共同参画の道しるべ

情報・システム研究機構 国立情報学研究所 根本 香絵 

 201486日から8日と3日間にわたってカナダのWilfrid Laurier大学で5th IUPAP International Conference on Womenin PhysicsICWIP)が開催されました。IUPAPは、物理から応用物理にわたる物理学を中心とした国際機関で、物理学の世界的な発展と、物理分野での協力関係、物理の応用による人類への貢献を支援することをミッションとして運営されています。WIPはそのワーキング・グループのひとつで、今回が5回目の国際大会となりました。

 会場には男女共同参画先進国とも言える北欧をはじめ欧米諸国、日本を含めたアジア、アフリカ諸国など様々な文化的・宗教的背景をもち個別の問題を抱える国々まで、実に世界中から科学者が集い、男女共同参画という問題について議論する機会となりました。もっとも注目されるのは、男女共同参画について、各国で様々な取り組み、政策がとられていることです。女性の積極登用や研究活動の支援、保育との両立のための仕組みなど、国がもつ仕組みや文化的背景にあわせて、様々な取り組みの実績が、次々と報告されていきます。日本からの報告にも大きな関心をもっていただきました。しかし、その中で世界共通に男女共同参画における見えない壁が立ち現れてくる様子も次第に明確になっていきます。今回の会議では、それが共有されたことは大きな成果と言えるでしょう。

 この見えない障壁への鍵となるのは、なんと「無意識のバイアス」。研究や業績の評価で、私達が無意識にもつこの性別に対するバイアスの科学的研究がいくつも報告されました。女性が男性と同じ職を得るには2.5倍の業績が必要であるというショッキングな研究データからも、無意識のバイアスが女性科学者の登用や女性のリーダーシップに大きな壁になっていることは間違いなさそうです。そして評価する側には男女を問わず同程度のバイアスがあることをデータは示していました。私自身もこれまで研究や業績の評価に携わり、常に公平であろうと細心の注意を払ってきましたし、評価に携わる科学者はみな同様の思いであろうと思います。しかし、これらの科学的検証は、その公平性の意識の中に、無意識のバイアスがあることを肝に銘じなければならないことを、私達に突き付けているのです。

 これまで、制度の改革が中心的課題であった共同参画ですが、世界では科学者という立場から、男女共同参画の見えない壁を理解し、自分たちの手で変えていこうという機運が盛り上がっています。そして、これは決して物理学者たちの孤独な戦いではありません。会場には、社会科学者も参加し、科学者が一丸となってこの問題へ取り組む姿勢があるのです。この新しい機運は、我が国の取り組みへも大きな影響を与えるものと期待されます。


参考

 5th IUPAP InternationalConference on Women in Physics August 5-8 2014, WilfridLaurier University, Waterloo, Canada

 http://icwip2014.wlu.ca/

 

 "Science faculty’ssubtle gender biases favor male students"(PNAS, 2012, 109(41),16474-16479), Corinne A. Moss-Racusin, John F. Dovidio, Victoria L. Brescoll,Mark J. Graham, and Jo Handelsman

 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3478626/

 

関連記事

 The Record.com “Conference celebrates female physicists, but there’s roomfor more”(Aug 07, 2014), Anam Latif

 http://www.therecord.com/news-story/4737239-conference-celebrates-female-physicists-but-there-s-room-for-more/

 

2013/01/26

第五回 男女共同参画の声を聞く

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 仁木 宏典 

 遺伝子が集まってできている染色体の末端部分を、テロメアをいう。染色体が複製される度にテロメアの部分は短くなり、最後には細胞は分裂できなくなる。このことから、テロメアは細胞の分裂回数を決める細胞寿命の時計であるとも言われている。このテロメアの研究では、女性研究者が主宰する研究室に国際的に有力なものが多い。テロメアの研究を始めた研究者が女性(Elizabeth Helen Blackburn、2009年のノーベル生理学?医学賞)だったからだと説明されたが、その真偽は知らない。ただテロメアも含む染色体関連の国際会議に出席しても、1/3以上は女性であり、この分野は女性の進出が著しいと実感する。振り返って、我が国である。昨年の分子生物学会にイスラエルから女性の研究者を講演者として招待した。彼女はDNA関係の研究をしているため、関連の講演をいろいろ熱心に掛け持ちして聴きに回っていた。そして日本国内の分子生物学の研究の高さを褒めてくれていたが、なぜ女性は少ないのか?と率直に尋ねてきた。院生やポスドクには女性も結構多くなり、会場でも少なからず女性が参加していた。だが、講演者となると極端に女性の数は少なくなる。日本分子生物学年会は昨年で34回を迎え、もう若い学会とは言えない。それでも創立時の既存の権威や価値感にはあまり捕われない自由な気風があふれた学会である。にもかかわらず、女性の進出を妨げるものがこの分野にもまだまだ存在するのだろうか。

 女性研究者がキャリアを形成する過程で、研究だけに集中できないという理由は確かにありそうだ。家庭や子育てはまだまだ女性の働きが中心でないと機能していかない。研究の成果をあげなくてはならないときには、これは女性研究者にとっても決して軽いものではない。イクメンなどが広まれば少なからず、その軽減はできるであろう。しかし、子を生むことは男性には決して代わることができす、根本的な解決にはならない。代理出産を選んだという米国の女性研究者の話からも、この問題がいかに切実か理解できる。

 これまでは、男性より劣っているからという偏見で女性の進出が遅れてきた。この点に関しては、ずいぶんと改善されてきたように思う。では男女を平等に見ましょうという立場で、生物学的な役割には差があるにも関わらず、女性を男性と全く同等に評価する事は、真の男女の公平な見方にはならないように思う。
性差を認めながらも性差を超えた公平な見方や制度というのもまだまだ難しい課題である。男女共同参画という精神は整って来つつあるが、その実用的な制度まではまだまだみんなの納得を得るところまでは至っていないことは実感している。 男女共同参画推進委員会は、とにかく、そのような不十分な制度を少しでも良くして行くために結成されたものである。劇的に改善する力はまだないが、いろいろな要望を聞く耳だけは持っている。その耳が新しくできた相談員の制度だ。どうせ言っても無駄だろうと思わずに、ぜひ、委員会に声を届けてください。
 

2011/09/16

第四回「羽ばたけ 日本の女性研究者」の公開に寄せて

情報・システム研究機構 国立情報学研究所 新井 紀子 

 2010年7月、日米女性研究者のシンポジウム(Japan-US Symposium 2010 -Connections-) が開催されました。テーマは「女性研究者のエンパワーメントと新領域創成に向けた日米シンポジウム」。単に懇親を深めるだけでなく、具体的な共同研究につなげたい、とアメリカ側は多くの若手女性研究者を引き連れて国立女性教育会館に到着していました。

 最初の晩の懇親会で、私は少なからぬ米国側女性研究者から「共同研究相手となる女性研究者をどうやって探せばよいのか?」と質問されました。「このパーティには自分の分野の研究者がいないのだが、どうすれば女性共同研究者を探すことができるのか?」そう尋ねられ、うまく返事ができない自分がそこにいました。

 確かにそうなのです。日本政府は、これまで男女平等参画社会を支援するために、女性研究者支援モデル育成事業など様々な施策を打ち出しては来ました。いくつかの大学には女性研究者を支援する拠点が形成され、男女平等参画を広報するためのウェブサイトがいくつも作られました。けれども、いざ女性研究者を探そうとしても、検索する手段がほとんど何もないのです。特に、英語での情報が限られていることに気づきました。

 シンポジウム2日目、私は情報学者としてある提案をしました。それは、日本の女性研究者のデータベースを作成してウェブ上で日本語・英語の両方で公開し、関心をもつ領域にいる女性研究者をすぐに検索できる「女性研究者総覧」を構築しよう、ということだったのです。けれども、具体的なメリットが見えない企画のために、多忙な女性研究者に特別の協力をお願いするのには無理があるでしょう。そこで考えたのが、大学共同利用機関として、情報・システム研究機構が運用していた研究者データベースResearchmapに性別欄を設け、Researchmapのデータから女性研究者の情報だけを抽出して「女性研究者総覧」を自動生成するというアイデアです。これならば、普段から研究業績管理のために利用しているResearchmapから自動的にデータが抜き出されるだけですから、女性研究者には余計な負担がかかりません。おまけに、データの整備費用や事務経費をかけずに女性研究者総覧を構築することができます。

 その思い付きからほぼ1年。このたび、女性研究者総覧「羽ばたけ 日本の女性研究者」を公開することができました。現在は母体となるResearchmapの登録研究者数が限られているためまだ170名ほどのデータベースにすぎませんが、2011年11月にJSTが運営している研究者データベースReaDとResearchmapが統合されることで、登録研究者数は一気に20万人を超えることが確実となっています。そのとき、「羽ばたけ 日本の女性研究者」サイトが、まさに羽ばたき、日本の男女平等参画推進の一助になればと願っています。
 

2011/02/24

第三回 豊かな未来に向けて

情報・システム研究機構 事務局長 呉 茂 

 世界大戦後の思想界において一世を風靡した実存主義の余燼が未だ燻っていた私の学生時代、サルトルなどを読み漁っていた延長で、シモーヌ・ド・ボーヴォワールの「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」という言葉に行き当たり、まさに驚天動地の衝撃を受けました。

 私は幼い頃から家庭も学校も周囲は男ばかりで、青春時代は、女性とは別の言葉をしゃべる全く違った生き物ではないかと嘆くくらい、男女間のコミュニケーションに難儀していました。しかし、その後はなんの疑問を抱くこともなく、就職し更に結婚して子どもを儲け、規範づくめのさまざまな人生のステージを遮二無二歩んでいるうちに、「な~んだ、自分も男としてつくられてきたのではないか、なんて不自由なのだ、その意味では男性も同じだ」と実感するようになりました。

 殊に海外との交流の仕事に携わるようになって、もしもそのように同じであると思うならば、やはり"gender equality"でなければ、人間としてフェアじゃないと考えるようになりました。果たしてこの社会では、女性は男性と対等の仲間であり、あらゆる活動領域で活躍する機会が得られ、さまざまな利益を共有できているのかな?そう自問してみると、社会人として管理職として、やらなければならないことが見えてくるような気がします。

 因みにボーヴォワールはセックスとジェンダーとの相違、また後者が社会や文化の中で獲得されるアイデンティの一つであることを明らかにしようとしていたといわれています。今日的にジェンダーを考えるときに、いろいろな解釈がなされているようですが、生物学的な性差だけでなく、社会的文化的な性のありようの違いに目を向けることは、理解や問題の取り組みにおいて重要な手がかりになるものと思います。ただしその「ありよう」も科学・技術や情報手段の急速な発達により、驚くほど変容しつつあり、物理的にも意識の上においても、男女の距離はどんどん縮まってきているように感じられます。

 もっとも社会的なコンセンサスが必要な改革・改善への道のりは平坦ではありません。科研費を増額したからといって直ぐに優れた論文が陸続と産出することにならないように、サイエンスの領域、特に人材の養成に関しては、単純な国際比較、無理な数合わせ、性急な評価は逆効果で、政策的に配慮を行うこと自体は否定しませんが、あまり実効を挙げているようには見受けられません。机上で大計画を作成するよりは、働きやすい環境づくりに向けて、実態を調査・分析し、こまめに資源のアロケーションやシステムを変えて、できるところから今すぐに積極的かつ持続的に取り組んでゆくことが肝要かと考えます。

 日本政府の財政は破綻寸前で、教育研究機関への支援も先細りの状況です。こうした窮乏下においては、機構も研究所も、一人でも優秀な人材が欲しい、採用したならばしたで能力のアップを図り一騎当千となって欲しい、経験豊富なベテランにはいつまでも留まって欲しい、と願うのは当然のことで、そこには男性、女性の区別は無用です。それを実現するためには、先例に捉われず、費用や機会を惜しまず、できるだけオープンに進める必要があります。

 長い人生においては、男女の差よりはむしろ人それぞれの違いの方が大きく、そこにこそ人間の魅力があります。人権を尊重し、それぞれの能力を正当に評価し、個性の豊かさを真摯に追い求めることは、自ずと男女の差別をなくしてゆくことにつながってゆくものと信じています。
 

2010/09/17

第二回 ダイバーシティとは何か

情報・システム研究機構 統計数理研究所 丸山 宏 

 ことしの前半にNHKで放送された番組「ハーバード白熱教室」は、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授による政治哲学の名物授業を取り上げたものである。難しいトピックに対して学生に考えさせ、サンデル教授が議論をファシリテートする、というスタイルが私にとっては斬新であったが、同時にそこで取り上げられた話題はどれも賛否両論あるもので、非常に考えさせられた。その9回目の授業のトピックの一つが「アファーマティブ・アクション」[1]であった。アファーマティブ・アクションとは何だろうか。我々はそれをどのように捉えれば良いのだろうか。

 私がIBMでマネジメントの職にあった日々のすべてにわたって、「ダイバーシティ」は 私に対する重要な評価項目の一つであった。私は採用・評価・昇進などについて、常に公 平であろうとしていたと思う。しかし上司からは、女性の採用が少ない、女性の昇進が遅 い、と常に責められ続けた。公平な評価を超えて女性を優遇しなければならない理由は何だろうか。私には答えがなく、悩む日々であった。

 多様性はしかし、男女の別だけの話ではない。プリンストン大学名誉教授の小林久志先生はご自身のブログ[2]で、日本社会の外国人に対する閉鎖性について、強い懸念を示され ている。このブログを読み、またここで紹介されていたアイヴァン・ホールの本「知の鎖国」[3]を読んだことで、私には多様性の本質が見えてきたように思った。それは「自分に は理解できないものをひとまずは『優れたものだ』と仮定を置いて考えること」である。[4]

 私にも女性や外国人の部下がいたが、彼ら、彼女らの考えが(特に、「なぜそのような考 えになるのか」が)直ちには理解できないことが多くあったように思う。もし、自分の理 解できる範囲で部下の提案を評価するとなれば、自分と同じバックグラウンド、例えば日本人男性の提案を、無意識に「優れたもの」としていなかっただろうか。そのために、自分では意識していなくても結果的に差別や閉鎖性につながっていなかっただろうか。

 多様なバックグラウンドはイノベーションの源泉である。先進的な企業は社会的責任の 観点からではなく、競争力のための戦略として多様性を捉え始めている[5]。女性、外国人、 その他様々なバックグラウンドを持つ人々との交流を通して、より広い視野で社会に貢献 していきたいと思う。

参考
[1] Michael Sandel, "Justice . Episode 09, Arguing Affirmative Action"
   http://www.justiceharvard.org/2011/02/episode-09/
[2] Hisashi Kobayashi, "Concerns about the insularity of Japan's universities, poor performance of Japanese students, and weakening competitiveness of Japanese 7/7/2011 c2011 Hiroshi Maruyama industry
   http://hp.hisashikobayashi.com/concerns-about-the-insularity-of-japan%E2%80%99s-universities-poor-performance-of-japanese-students-and-weakening-competitiveness-of-japanese-industry/
[3] アイヴァン・ホール, 知の鎖国—外国人を排除する日本の知識人産業
   ISBN-13: 978-4620312156, 毎日新聞社, 1998.
[4] 丸山宏、ブログ「知の鎖国」
   http://japan.cnet.com/blog/maruyama/2010/04/15/entry_27039118/
[5] Ernst & Young, "The new global mindset: Driving innovation through diverse perspectives

 

2010/08/01

第一回 データで見せる日本の女性研究者の実像

情報・システム研究機構 郷 通子 

 2010年7月、日米女性研究者のシンポジウム(Japan-US Symposium 2010 -Connections-) が国立女性教育会館で行われました。テーマは「女性研究者のエンパワーメントと新領域創成に向けた日米シンポジウム」(Connections: Bringing Together the Next Generation of Women Leaders in Science, Technology, Engineering and Mathematics)で、日本とアメリカから各15名(総計:女性29名、男性1名)の研究者が招かれ、基調講演、パネルディスカッション、分科会、まとめの討論が極めて濃密度に行われました1~3) 。米国の参加者から、「共同研究を組みたくても、日本の女性研究者のデータベースがないため相手を探せない」との意見があり、全体会議での議論になりました。国内の女性研究者どうしも、分野が違うと知り合う機会がなく、情報交換や分野融合研究の機会がなかったことが話題となりました。折しも、日米シンポジウムの直前に行われたプレ会議において、「女性研究者の見える化」を図るために、情報学研究所の新井紀子さんから「女性研究者総覧作成」の提案がなされたことはとてもタイムリーでした。

 早速、堀田凱樹機構長(当時)に機構長裁量経費からの支出をお願いして、本機構らしい男女共同参画の一環として、女性研究者総覧作成事業「羽ばたけ 日本の女性研究者」を開始しました。新井さんが中心となって研究開発を行ったResearchmapに登録されている女性研究者の情報だけを集めて発信(日本語・英語)し、「女性研究者の見える化」を実現します。

 JSTの協力で、今回Researchmapに性別欄を設け、女性研究者の情報を自動収集できる準備が整いました。研究分野に従って、分野ごとに自動分類して、女性研究者のリストを表示します。性別を公開しても構わないという女性研究者が約100人を超えた時点で、「羽ばたけ 女性研究者」のサイトをオープンする予定です。

 是非、多くの女性研究者に登録していただきたいと願っています。この夏頃には、日本全体の女性研究者に関する情報の発信により、わが国の男女共同参画の推進に寄与できまますように考えています。

参考
1) 国立女性教育会館 平成22年度事報告
 「女性研究者のエンパワーメントと新領域創成に向けた日米シンポジウム」
 http://www.nwec.jp/jp/program/invite/2010/page04Ms.html
2) 郷 通子:「女性研究者のエンパワーと活躍に向けて」
 平成22年度「男女共同参画国際シンポジウム」報告書 山形大学
 http://www.yamagata-u.ac.jp/kenkyu/danjo/
3) 郷 通子:「女性研究者が輝くために」
 会誌「表面科学」2011年7月号
 http://www.sssj.org/jsssj/kaishi_index.html