第八回 日本における男女共同参画社会の模索
情報・システム研究機構 URAステーション
情報環境担当チーフ 河瀬 基公子
平成26年11月25日
2013年11月13日から3日間の日程で、アメリカのワシントンDCにおいて2013 Gender Summit 3 –North Americaが開催されました。Gender Summitは男女平等を促進し、効果的研究とイノベーションを促進するにあたって障壁となっている男女共同参画にかかる諸問題の理解を深めるための国際的会議で、3回目の本会議は300名を超える大学や研究機関等の関係者が世界各国から参加しました。
最も印象に残ったのは、無意識の偏見に関するものです。マガーク効果(McGurk effect)を取り上げ、見たこと、聞いたことだけでなく、脳内で全く別のものを作り上げ、それによって判断されることがあると説明されていました。マガーク効果とは、例えば、人が「ガーガー」と言っている映像と「バーバー」と言っている音を同時に視聴すると「ダーダー」と聞こえるというように、全く別の音として認識する現象です。
本会議では、人間の思い込みがどのような影響を与えるのか、無意識に人間の脳で作られているイメージについて、社会学的実験に基づいた対応の検討がなされました。例えば、人事採用検討の際に、履歴書の名前を隠して採否を検討した場合と、名前を記載して(男女を明確にして)採否を検討した場合、名前を記載して採用を検討した場合の方が、女性の採用率が低くなることが示されました。また、同じ履歴書内容であっても名前の欄に男性の名前を記載した場合と女性の名前を記載した場合では男性の名前を記載した方が採用率は高くなることも示されていました。このような無意識の偏見に関する問題を乗り越えるためには、まず無意識の偏見があるということを認識することが重要であり、例えば、採用担当者への研修などが効果的であるとのことです。
また、リーダーシップの多様性に関するセッションでは、アメリカ及びヨーロッパでは博士号の50%が女性に与えられているにも関わらず女性管理職の数は少なく、主導権は依然として男性にあることを指摘され、女性のリーダーを増やすためには個々人ではなく、社会全体の意識改革が必要であるとの意見もありました。
男女の身体的違いについては、インフルエンザの発病等において男女差に有意性があるという発表がありました。その中で、実験動物についてもふれられ、雌のマウスを使うことがあまりないので、今後は実験動物の雌雄についても気を配る必要があると主張をされていました。
その後2014年5月にアメリカの公的資金提供機関でもあるアメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)が、近々、外部資金申請者には使用した実験動物や細胞の性別のバランスを求めると発表しました。少なくとも雌雄どちらの実験動物を使用したのか記載が必要になるとのことです。研究者は繁殖の関係で雌の動物を実験に使用しない傾向にあり、雌の動物について理解が不足している恐れがあるとのことです。(Science vol344 16 May 2014)Gender Summitでの発表後、これほど早く制度化の検討がなされる、アメリカのスピードに驚きました。今後、アメリカにおけるルールが日本における研究に大きな影響を与えることも予想されます。
現在、欧米諸国と比較し、男女共同参画が進んでいるとは言えない日本において、海外の取組を把握すると共に、日本においてどのような対応が効果的であるか検討し、実施することが必要だと考えます。
<参考>
Gender Summit
http://www.gender-summit.eu/
"Needed: More Females in Animal and Cell Studies" (Science vol344 16 May 2014) Jennifer Couzin-Frankel
http://www.sciencemag.org/content/344/6185/679.summary
“Policy: NIH to balance sex in cell and animal studies” (Nature 14 May 2014) Janine A. Clayton& Francis S. Collins
http://www.nature.com/news/policy-nih-to-balance-sex-in-cell-and-animal-studies-1.15195