第五回 男女共同参画の声を聞く
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 仁木 宏典
遺伝子が集まってできている染色体の末端部分を、テロメアをいう。染色体が複製される度にテロメアの部分は短くなり、最後には細胞は分裂できなくなる。このことから、テロメアは細胞の分裂回数を決める細胞寿命の時計であるとも言われている。このテロメアの研究では、女性研究者が主宰する研究室に国際的に有力なものが多い。テロメアの研究を始めた研究者が女性(Elizabeth Helen Blackburn、2009年のノーベル生理学?医学賞)だったからだと説明されたが、その真偽は知らない。ただテロメアも含む染色体関連の国際会議に出席しても、1/3以上は女性であり、この分野は女性の進出が著しいと実感する。振り返って、我が国である。昨年の分子生物学会にイスラエルから女性の研究者を講演者として招待した。彼女はDNA関係の研究をしているため、関連の講演をいろいろ熱心に掛け持ちして聴きに回っていた。そして日本国内の分子生物学の研究の高さを褒めてくれていたが、なぜ女性は少ないのか?と率直に尋ねてきた。院生やポスドクには女性も結構多くなり、会場でも少なからず女性が参加していた。だが、講演者となると極端に女性の数は少なくなる。日本分子生物学年会は昨年で34回を迎え、もう若い学会とは言えない。それでも創立時の既存の権威や価値感にはあまり捕われない自由な気風があふれた学会である。にもかかわらず、女性の進出を妨げるものがこの分野にもまだまだ存在するのだろうか。
女性研究者がキャリアを形成する過程で、研究だけに集中できないという理由は確かにありそうだ。家庭や子育てはまだまだ女性の働きが中心でないと機能していかない。研究の成果をあげなくてはならないときには、これは女性研究者にとっても決して軽いものではない。イクメンなどが広まれば少なからず、その軽減はできるであろう。しかし、子を生むことは男性には決して代わることができす、根本的な解決にはならない。代理出産を選んだという米国の女性研究者の話からも、この問題がいかに切実か理解できる。
これまでは、男性より劣っているからという偏見で女性の進出が遅れてきた。この点に関しては、ずいぶんと改善されてきたように思う。では男女を平等に見ましょうという立場で、生物学的な役割には差があるにも関わらず、女性を男性と全く同等に評価する事は、真の男女の公平な見方にはならないように思う。
性差を認めながらも性差を超えた公平な見方や制度というのもまだまだ難しい課題である。男女共同参画という精神は整って来つつあるが、その実用的な制度まではまだまだみんなの納得を得るところまでは至っていないことは実感している。 男女共同参画推進委員会は、とにかく、そのような不十分な制度を少しでも良くして行くために結成されたものである。劇的に改善する力はまだないが、いろいろな要望を聞く耳だけは持っている。その耳が新しくできた相談員の制度だ。どうせ言っても無駄だろうと思わずに、ぜひ、委員会に声を届けてください。