2010-9 Blog Entry List

第二回 ダイバーシティとは何か

情報・システム研究機構 統計数理研究所 丸山 宏 

 ことしの前半にNHKで放送された番組「ハーバード白熱教室」は、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授による政治哲学の名物授業を取り上げたものである。難しいトピックに対して学生に考えさせ、サンデル教授が議論をファシリテートする、というスタイルが私にとっては斬新であったが、同時にそこで取り上げられた話題はどれも賛否両論あるもので、非常に考えさせられた。その9回目の授業のトピックの一つが「アファーマティブ・アクション」[1]であった。アファーマティブ・アクションとは何だろうか。我々はそれをどのように捉えれば良いのだろうか。

 私がIBMでマネジメントの職にあった日々のすべてにわたって、「ダイバーシティ」は 私に対する重要な評価項目の一つであった。私は採用・評価・昇進などについて、常に公 平であろうとしていたと思う。しかし上司からは、女性の採用が少ない、女性の昇進が遅 い、と常に責められ続けた。公平な評価を超えて女性を優遇しなければならない理由は何だろうか。私には答えがなく、悩む日々であった。

 多様性はしかし、男女の別だけの話ではない。プリンストン大学名誉教授の小林久志先生はご自身のブログ[2]で、日本社会の外国人に対する閉鎖性について、強い懸念を示され ている。このブログを読み、またここで紹介されていたアイヴァン・ホールの本「知の鎖国」[3]を読んだことで、私には多様性の本質が見えてきたように思った。それは「自分に は理解できないものをひとまずは『優れたものだ』と仮定を置いて考えること」である。[4]

 私にも女性や外国人の部下がいたが、彼ら、彼女らの考えが(特に、「なぜそのような考 えになるのか」が)直ちには理解できないことが多くあったように思う。もし、自分の理 解できる範囲で部下の提案を評価するとなれば、自分と同じバックグラウンド、例えば日本人男性の提案を、無意識に「優れたもの」としていなかっただろうか。そのために、自分では意識していなくても結果的に差別や閉鎖性につながっていなかっただろうか。

 多様なバックグラウンドはイノベーションの源泉である。先進的な企業は社会的責任の 観点からではなく、競争力のための戦略として多様性を捉え始めている[5]。女性、外国人、 その他様々なバックグラウンドを持つ人々との交流を通して、より広い視野で社会に貢献 していきたいと思う。

参考
[1] Michael Sandel, "Justice . Episode 09, Arguing Affirmative Action"
   http://www.justiceharvard.org/2011/02/episode-09/
[2] Hisashi Kobayashi, "Concerns about the insularity of Japan's universities, poor performance of Japanese students, and weakening competitiveness of Japanese 7/7/2011 c2011 Hiroshi Maruyama industry
   http://hp.hisashikobayashi.com/concerns-about-the-insularity-of-japan%E2%80%99s-universities-poor-performance-of-japanese-students-and-weakening-competitiveness-of-japanese-industry/
[3] アイヴァン・ホール, 知の鎖国—外国人を排除する日本の知識人産業
   ISBN-13: 978-4620312156, 毎日新聞社, 1998.
[4] 丸山宏、ブログ「知の鎖国」
   http://japan.cnet.com/blog/maruyama/2010/04/15/entry_27039118/
[5] Ernst & Young, "The new global mindset: Driving innovation through diverse perspectives