ダイバーシティ表彰制度アテナ・スワン(Athena SWAN)憲章
本調査分析事業では、わが国の女性研究者支援事業と国際比較するダイバーシティ評価システムとして、イギリスで15年にわたり運営されてきた表彰制度「アテナ・スワン」を取り上げます。
アテナ・スワンは、大学、研究機関の科学技術分野における男女共同参画を推進するための表彰制度として、2005年に発足しました。名称を構成するアテナ(Athena)はギリシャ神話の女神の名前に由来し、スワン(SWAN)は科学技術の女性のための学術的ネットワーク(Scientific Women's Academic Network)の頭文字の組み合わせです。各機関が申請する取り組み内容によって金・銀・銅の認証レベルが設けられ、継続的な活動を奨励するように制度設計されているのが特徴です。発足当初の参加機関はわずか10大学でしたが、2012年から急拡大し、2020年時点での参加機関数は160、認証数は機関・学部の総計で766に達しています。2015年には、対象分野を人文・社会・経営・法律の各学部へ拡大しました。
アテナ・スワンが受け入れられた大きな理由として、以下3点が考えられます。
- アテナ・スワン憲章の原型が女性科学者のネットワークによって創設され、研究者コミュニティが主導する草の根の活動により支えられている
- 金・銀・銅の3つの認証レベルにより、女性研究者の活躍促進に取り組む機関の達成度、研究環境の優位性が可視化され、優秀な研究者の獲得と機関所属員の意識向上に寄与している
- もともと草の根から始まった活動に、トップダウンの後押し(大型研究費申請要件とアテナ・スワン認証レベルのリンク)という政策的援護が加わった
他にも、アテナ・スワンの特筆すべき点として、以下が挙げられます。
- 認証を申請する前に、10項目からなるアテナ・スワン憲章に対し賛同の意を示す機関の参加登録を行う。
- 認証を申請する機関は、データの収集と分析に基づく現状把握と課題抽出を行い、個々の課題に対する改善案(アクションプラン)を申請書にまとめ、提出する。その際、審査側から一律の評価指標、数値目標が課されることはなく、機関の現状、自己評価に基づいた達成目標を設定できる。
- 申請書の審査は、国内の大学に所属する関係者から選出されるパネリストと審査をとりまとめる第三者機関により運営され、査読(ピアレビュー)形式で進められる。
- 認証レベルの更新・継続の申請が4年に1度(2020年以降は5年に1度)必要であり、改善努力を持続させるモチベーションになっている。
また、アテナ・スワンは、ジェンダー平等の成功事例として、イギリス国外へ広がっています。2014年のアイルランド共和国を皮切りに、オーストラリア、アメリカ、カナダが試験運用を開始しています。いずれも、イギリス発祥のアテナ・スワンを自国特有の文化に適応させながら導入しており、わが国の表彰制度や評価指標を検討するうえでの参考事例といえます。