男女共同参画推進コラム

第六回 科学的データによる男女共同参画の道しるべ

情報・システム研究機構 国立情報学研究所 根本 香絵 

 201486日から8日と3日間にわたってカナダのWilfrid Laurier大学で5th IUPAP International Conference on Womenin PhysicsICWIP)が開催されました。IUPAPは、物理から応用物理にわたる物理学を中心とした国際機関で、物理学の世界的な発展と、物理分野での協力関係、物理の応用による人類への貢献を支援することをミッションとして運営されています。WIPはそのワーキング・グループのひとつで、今回が5回目の国際大会となりました。

 会場には男女共同参画先進国とも言える北欧をはじめ欧米諸国、日本を含めたアジア、アフリカ諸国など様々な文化的・宗教的背景をもち個別の問題を抱える国々まで、実に世界中から科学者が集い、男女共同参画という問題について議論する機会となりました。もっとも注目されるのは、男女共同参画について、各国で様々な取り組み、政策がとられていることです。女性の積極登用や研究活動の支援、保育との両立のための仕組みなど、国がもつ仕組みや文化的背景にあわせて、様々な取り組みの実績が、次々と報告されていきます。日本からの報告にも大きな関心をもっていただきました。しかし、その中で世界共通に男女共同参画における見えない壁が立ち現れてくる様子も次第に明確になっていきます。今回の会議では、それが共有されたことは大きな成果と言えるでしょう。

 この見えない障壁への鍵となるのは、なんと「無意識のバイアス」。研究や業績の評価で、私達が無意識にもつこの性別に対するバイアスの科学的研究がいくつも報告されました。女性が男性と同じ職を得るには2.5倍の業績が必要であるというショッキングな研究データからも、無意識のバイアスが女性科学者の登用や女性のリーダーシップに大きな壁になっていることは間違いなさそうです。そして評価する側には男女を問わず同程度のバイアスがあることをデータは示していました。私自身もこれまで研究や業績の評価に携わり、常に公平であろうと細心の注意を払ってきましたし、評価に携わる科学者はみな同様の思いであろうと思います。しかし、これらの科学的検証は、その公平性の意識の中に、無意識のバイアスがあることを肝に銘じなければならないことを、私達に突き付けているのです。

 これまで、制度の改革が中心的課題であった共同参画ですが、世界では科学者という立場から、男女共同参画の見えない壁を理解し、自分たちの手で変えていこうという機運が盛り上がっています。そして、これは決して物理学者たちの孤独な戦いではありません。会場には、社会科学者も参加し、科学者が一丸となってこの問題へ取り組む姿勢があるのです。この新しい機運は、我が国の取り組みへも大きな影響を与えるものと期待されます。


参考

 5th IUPAP InternationalConference on Women in Physics August 5-8 2014, WilfridLaurier University, Waterloo, Canada

 http://icwip2014.wlu.ca/

 

 "Science faculty’ssubtle gender biases favor male students"(PNAS, 2012, 109(41),16474-16479), Corinne A. Moss-Racusin, John F. Dovidio, Victoria L. Brescoll,Mark J. Graham, and Jo Handelsman

 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3478626/

 

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 The Record.com “Conference celebrates female physicists, but there’s roomfor more”(Aug 07, 2014), Anam Latif

 http://www.therecord.com/news-story/4737239-conference-celebrates-female-physicists-but-there-s-room-for-more/