男女共同参画推進コラム

第十二回 家庭内ワークシェアリングのすすめ

情報・システム研究機構 統計数理研究所 准教授 黒木 学

            平成26年3月5日

 日本では「家事と子育てはお母さんの仕事」という固定概念を持つ男性が多いせいか、家事と育児をお母さん任せにしているお父さんが多いのではないでしょうか?家庭の方針は個々の家庭で決めることなので、(社会事件にでもならない限り)どういった方針が正しいのか・間違っているのかを第三者が判断することは、いわゆる「大きなお世話」かもしれません。そうとはいっても、核家族化が進む一方で、女性にも社会貢献が求められるようになった現在、家事も育児もお母さんの仕事と決めつけてしまうと、女性に肉体的にも、精神的にも大きな負担をかけてしまうことは、みなさんにもおおむね同意していただけるのではないでしょうか。こういった女性の負担を軽減するためには、男性の積極的な家事・育児参加、すなわち家庭内にワークシェアリングを取り入れることではないかと考えています。

 家庭内ワークシェアリングにも、完全に分業体制にするケースや、ルールを設けないで気がついたほうが率先して家事・育児を行うケースなど、いろいろなスタイルがあり、それぞれ長所も短所もあります。我が家では、この二つを組み合わせたような家庭内ワークシェアリングを実践しています。その感想・経験として、家事も育児も「完全にお母さん任せ」にしている男性と比較して、仕事の進み具合が若干遅いなぁ、と感じることがときとしてあります。その一方で、無意識ながら日常生活で時間の使い方を工夫するようになるため、結局のところ、大きな有意差はないように思います。また、普段から家事や育児に接しているため、お母さんに予期せぬ事態が起こってもあたふたすることなく、家事・育児はもちろんのこと、仕事にもおおむねうまく対応できることは大きなメリットではないかと思います。そして、なんといっても、家庭内ワークシェアリングをとおして子供の笑顔に触れる機会が増えることは、味気ない日常生活に、豊かさ、安らぎ、そしてうるおいと与えてくれます。このことは、「完全にお母さん任せ」にしている男性には、なかなか経験することのできない感覚ではないかと思います。

 家庭内ワークシェアリングがうまくいく前提として、「男性と女性がともに協力して社会貢献を行う時代がきている」ことを社会全体が理解していること、そしてお父さん・お母さんがともに「お互いを思いやりながら家事・育児に積極的に参加する」という意識を持つことがあるかと思います。現在のところ,男女共同参画という考え方がまだ浸透しておらず、社会からの理解も十分とはいえないように思います。そんな状況ですが、我が家では今のところ家庭内ワークシェアリングをそれなりにうまく実践できていることを考えてみると、みなさんもとりあえず試してみるのは「あり」なのではないか、と思う今日この頃でした。
 

第十一回 女性研究者の現実と模索

情報・システム研究機構 統計数理研究所 准教授 瀧澤由美

            平成26年1月19日
 
 男女共同参画委員の方々が問題に真摯に向き合って下さっていることに触れ、大変有り難く感じました。そこでこのコラムで私に求められているは、女性研究者が置かれている現実とその中での模索について知ってもらうことではないかと考えました。研究者で、母親で、父の介護と、やらなければならない仕事はいつも数多くあるので、いくつかの項目について書いてみます。

-情報化に支えられて、でも15分早ければ 
 現在、情報ネットワークの高度化と普及によって、時間と場所を選ばずに仕事ができるようになりました。研究には理論と実験、応用など多面性がありますが、特に理論系の仕事はインターネットやクラウド等の情報ツールに支えられ、とても仕事がしやすくなりました。これは女性のみならず、男性もワーク・ライフバランスを考えた仕事の仕方をするためには有効です。情報インフラの整備と発展は今後も期待できますから、これらを利用するための支援があると有り難いです。 
 一方で重要となってくるのは研究者同士の対話です。特に共同研究等の打合せはメールでは誤解を生む事もあるので、やはりface-to-faceでなければ困難です。しかし男性研究者は仕事の後の仕事(つまり家事)がないためか、時間を無意味に引き延ばすのは困りもの。全力で働いた後に、家に飛んで帰って大至急夕飯を作ることの大変さといったら。それでも作れる日はラッキーで15分遅かったばかりに、子どもはコンビニ弁当を買ってきて食べていたということも。これには事前に打合せ内容のメモを印刷物で用意し、効率化による時間短縮を図っています。

-先人の努力を忘れない
 学会でイスタンブールに行った際、そこで出会った女性研究者が「トルコでは女性の権利があまり認められていない、女性参政権が認められたのもとても遅い。」というので何年に参政権を得たのか聞くと、1934年だというのです。日本は戦後ですからもっと遅い1945年と言うととても驚いていました。しかし、忘れてはならないのはそれまでになされた多くの努力で、市川房枝氏らによる運動により婦人参政権の法案が1930年に衆議院を通過したのですが、貴族院で廃案となっています[1]。私にとって身近なのは1986年の男女雇用機会均等法です。1984年に入社し2年目のことで、女性でも研究所に配属されることを当たり前のように感じていましたが、先人の努力を忘れないようにしたいと思います。

-次の世代に伝えること
 娘を持ってから、母の言っていたことを思い出すことが多くなりました。女の子は何でもできなければなりません。学校では勉強、家ではきれい好き、ピアノ、習字、筆まめで、大きくなったらご飯くらい作れて当たり前です。私の苦手なこれらの能力は私の母の世代では、お嫁さん、ひいては母親になるために必要なことであったと思います。 
 しかし、今、男女関係なくひとりひとりが自分の衣食住を含めどこにいても生活を営める能力をもつことが求められていると思います。研究者にとって住む場所というのは研究テーマ程、重要な要素ではありません。研究に必要な場所ということで決められることが多いと思います。次世代を担う子ども達には、世界のどこに住んでも健康を保ち、異文化を有する人々の中でも楽しく暮らせる能力を身につけてほしい。そうすればどのような仕事をしていてもきっとよい人生を送れると思います。そして、生活の厄介ごとをいわゆる主婦に押しつけるのではなく、それぞれが得意なことで補い合って豊かな社会を作って欲しい、それを伝えることが母の世代の努力に報いることになると思います。

[1] 市川房枝 私の履歴書ほか,日本図書センター,1999年02月.
 

第十回 小さなことからコツコツと

情報・システム研究機構 事務局 総務課総務係長 水谷 彰

            平成26年12月19日

最近、「イクメン」という言葉が、新聞等でちらりほらり出て来ています。男性の育児への参加の推進、配偶者との家事分担や女性の気持ちになって考えてみる勉強会など、様々な取り組みが行われているようです。

少し前のことですが、「妊婦さん」の気持ちになるということで、コルセットのようなベルトをつけて家事等を行うとどうなるか?ということを体験する機会があり、やってみるとこれがなかなか、「しんどい!」通常の動きもさることながら、思うように動くこともしづらい。このような状況で、家事、仕事などをこなすということは、なんと凄いのだろうと感心し、偉大なことだとしみじみ思いました。

申し遅れましたが、私は、平成26年度から男女共同参画推進委員会のオブザーバーをさせて頂いております。オブザーバーの立場でございますので、委員の皆様とは、ちょっと違う点もあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

大学職員として勤務しておりました時に、少しだけ学内保育園の手続関係の事務を担当しておりました。その際に感じましたことは、「ユーザーのニーズ等を把握しながら的確に分析し、最適な支援を行う。」ということが大変重要なのだと気づかされました。もちろん、様々な条件などで、すべてが整うということではありませんが、「基本姿勢」として考える上では大事ではないかと考えます。併せて、女性研究者は、結婚や出産、育児などのライフイベント、そして研究、家事等で、目まぐるしい日々を送っているので、様々な場面での「支援」や「相談体制」の機会がたくさん出来るという事が、結果として女性研究者の研究を支援する大きな成果に繋がるのではないかと思います。また、男性の方々に対しても、「相互理解」、「相談」、「相互協力」といった部分で、長期的な視点で、更に一歩進んだ形で対応できる環境づくりを共に進めていく必要があると思います。

今年度、情報・システム研究機構では、女性研究者研究活動支援事業が採択され、新しい支援体制を構築し、新たな一歩が始まります。その歩みは、どのようなものになるのでしょうか?より充実した研究者支援に向かって、微力ではございますが共に歩んでまいりたいと考えております。
 

第九回 Women’s Forum Global Meetingに参加して

情報・システム研究機構 国立情報学研究所 新井 紀子

            平成26年12月8日

 ここ数年、国際的な女性フォーラムが盛んに開催されている。その中でも、アメリカを中心に開催されるInternational Women’s Forumとヨーロッパを中心に開催されるWomen’s Forumは二大国際女性フォーラムとして多くの参加者を集めている。この度、Women’s Forumが初開催の地フランス ドーヴィルで十周年のグローバルミーティングを開催するにあたり招待講演者としてお招き頂いた。2011年から国立情報学研究所を中心に進めている「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトが、ウォールストリート・ジャーナル、ニューヨーク・タイムズ等で紹介されたことが事務局の目に留まったらしい。女性ばかりの、しかも研究集会ではないフォーラムは初めてのことであるし、過去の招待講演者を眺めると錚々たる顔ぶれが並んでいるので恐れをなしたが、貴重な機会と思いお受けすることにした。何でもWomen’s Forumが日本の女性研究者を招待するのは今回が初めてだということで、事前にわざわざインタビュアーを派遣して下さった。プロジェクトの概要以外にも、日本という社会における女性の地位がOECD諸国の中で最低レベルにある国で、しかも、AIという男性優位の研究環境の中でプロジェクトを率いるのはどのような気持ちか、など多岐にわたる質問を受けた。様々な研究会でも政府の委員会でも、男性の中に自分一人が女性という環境に慣れっこになっていたが、そのことが異常な事態であることを再認識せざるを得なかった。

 Women’s Forumの特徴は、講演はプレゼンテーション形式ではなくインタビューまたはディスカッション形式で行われるということ、また参加者間のネットワークビルディングにその多くの時間が使われるということにあった。風光明媚なドーヴィルの高級ホテルを三つも借り切って行われるという規模に度肝を抜かれていると、「誰と知り合うべきかターゲットを絞らないとあっという間に最終日になってしまうわよ」と隣の席のイギリス人から忠告を受けた。ちなみに彼女は、現在もまだアフリカを中心に28か国以上で行われているFGM(女性器切除)をやめさせる活動をしているNPOの代表だという。「FGMをやめさせるのはとても困難なの。彼らはなぜFGMを続けるかについての理由をいくつでも考える。宗教や文化の多様性だとか、女性が進んで受け入れているだとか。欧米に赴任してくる教育を受けた外交官でさえ娘にFGMを受けさせることがある」。世界には日本では想像もつかないような多様なニーズとコンフリクトがあり、NPOやNGO、さらに企業家たちが縦横無尽に行き来しながら問題解決を図っている。それは世界経済に不可欠な一部なのである。彼女たちにとってこのような女性フォーラムに出席し、人々に活動の必要を訴え、支援者やスポンサーを獲得することは社交などではなく正に仕事の中心的課題なのである。特別講演者のIMF専務理事のラガルド女史をはじめとして、全員が快活によく喋り、美しく着飾り、そして何より聡明で正義感が強い。世界最大級の広告代理店パブリシスのCEOであるレヴィ氏が、インタビュアーであるワシントン・ポストのウェイマス女史にピンクの椅子を譲ると、会場から大きなブーイングが起こる一幕もあった。

 「ロボットは大学入試を突破できるか」と題した私の講演は、そういう中で異色ではあったが、GoogleやPayPalといったIT企業やジャーナリストに関心を持って頂けたようであった。フランスのあるジャーナリストからはAIやロボットが及ぼす社会的影響についての記事をぜひ書きたいと追加取材の依頼も受けた。

 講演の最後に私は一枚の図を聴衆に提示した。それは、人工知能学会が発行する2014年1月1日号の学会誌「人工知能」の表紙の画像である。背中にケーブルをつけた女性型アンドロイドが箒を手に掃除をしているイラストで、これにより人工知能学会は女性蔑視との非難を浴び公式に謝罪に追い込まれた。一方、これが宣伝効果となったのか今年人工知能学会は会員数と読者数を大きく伸ばしたという曰くつきの一枚だ。「私は『そのような国』で、このAIプロジェクトを率いている」というと会場からため息と拍手が起こった。私は特に自らの見解を述べる必要を感じなかった。なぜなら、学会誌がそのような図を表紙に採用することは完全に「アウト」であることの合意がそこに存在したためである。

 グローバルスタンダードでは「アウト」であるにも関わらず、それを採用する様々な理由を、社会的に優位を手にした側が主張する——そういう意味では私たちの社会は未だFGMの在る社会とそう変わりないのである。
 

第八回 日本における男女共同参画社会の模索

情報・システム研究機構 URAステーション 
情報環境担当チーフ 河瀬 基公子 
            平成26年11月25日 

 2013年11月13日から3日間の日程で、アメリカのワシントンDCにおいて2013 Gender Summit 3 –North Americaが開催されました。Gender Summitは男女平等を促進し、効果的研究とイノベーションを促進するにあたって障壁となっている男女共同参画にかかる諸問題の理解を深めるための国際的会議で、3回目の本会議は300名を超える大学や研究機関等の関係者が世界各国から参加しました。
 
 最も印象に残ったのは、無意識の偏見に関するものです。マガーク効果(McGurk effect)を取り上げ、見たこと、聞いたことだけでなく、脳内で全く別のものを作り上げ、それによって判断されることがあると説明されていました。マガーク効果とは、例えば、人が「ガーガー」と言っている映像と「バーバー」と言っている音を同時に視聴すると「ダーダー」と聞こえるというように、全く別の音として認識する現象です。 
 本会議では、人間の思い込みがどのような影響を与えるのか、無意識に人間の脳で作られているイメージについて、社会学的実験に基づいた対応の検討がなされました。例えば、人事採用検討の際に、履歴書の名前を隠して採否を検討した場合と、名前を記載して(男女を明確にして)採否を検討した場合、名前を記載して採用を検討した場合の方が、女性の採用率が低くなることが示されました。また、同じ履歴書内容であっても名前の欄に男性の名前を記載した場合と女性の名前を記載した場合では男性の名前を記載した方が採用率は高くなることも示されていました。このような無意識の偏見に関する問題を乗り越えるためには、まず無意識の偏見があるということを認識することが重要であり、例えば、採用担当者への研修などが効果的であるとのことです。
 また、リーダーシップの多様性に関するセッションでは、アメリカ及びヨーロッパでは博士号の50%が女性に与えられているにも関わらず女性管理職の数は少なく、主導権は依然として男性にあることを指摘され、女性のリーダーを増やすためには個々人ではなく、社会全体の意識改革が必要であるとの意見もありました。
 
 男女の身体的違いについては、インフルエンザの発病等において男女差に有意性があるという発表がありました。その中で、実験動物についてもふれられ、雌のマウスを使うことがあまりないので、今後は実験動物の雌雄についても気を配る必要があると主張をされていました。
 その後2014年5月にアメリカの公的資金提供機関でもあるアメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)が、近々、外部資金申請者には使用した実験動物や細胞の性別のバランスを求めると発表しました。少なくとも雌雄どちらの実験動物を使用したのか記載が必要になるとのことです。研究者は繁殖の関係で雌の動物を実験に使用しない傾向にあり、雌の動物について理解が不足している恐れがあるとのことです。(Science vol344 16 May 2014)Gender Summitでの発表後、これほど早く制度化の検討がなされる、アメリカのスピードに驚きました。今後、アメリカにおけるルールが日本における研究に大きな影響を与えることも予想されます。

 現在、欧米諸国と比較し、男女共同参画が進んでいるとは言えない日本において、海外の取組を把握すると共に、日本においてどのような対応が効果的であるか検討し、実施することが必要だと考えます。

<参考>
Gender Summit
http://www.gender-summit.eu/

"Needed: More Females in Animal and Cell Studies" (Science vol344 16 May 2014) Jennifer Couzin-Frankel
http://www.sciencemag.org/content/344/6185/679.summary

“Policy: NIH to balance sex in cell and animal studies” (Nature 14 May 2014) Janine A. Clayton& Francis S. Collins
http://www.nature.com/news/policy-nih-to-balance-sex-in-cell-and-animal-studies-1.15195