男女共同参画推進コラム

第二回 ダイバーシティとは何か

情報・システム研究機構 統計数理研究所 丸山 宏 

 ことしの前半にNHKで放送された番組「ハーバード白熱教室」は、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授による政治哲学の名物授業を取り上げたものである。難しいトピックに対して学生に考えさせ、サンデル教授が議論をファシリテートする、というスタイルが私にとっては斬新であったが、同時にそこで取り上げられた話題はどれも賛否両論あるもので、非常に考えさせられた。その9回目の授業のトピックの一つが「アファーマティブ・アクション」[1]であった。アファーマティブ・アクションとは何だろうか。我々はそれをどのように捉えれば良いのだろうか。

 私がIBMでマネジメントの職にあった日々のすべてにわたって、「ダイバーシティ」は 私に対する重要な評価項目の一つであった。私は採用・評価・昇進などについて、常に公 平であろうとしていたと思う。しかし上司からは、女性の採用が少ない、女性の昇進が遅 い、と常に責められ続けた。公平な評価を超えて女性を優遇しなければならない理由は何だろうか。私には答えがなく、悩む日々であった。

 多様性はしかし、男女の別だけの話ではない。プリンストン大学名誉教授の小林久志先生はご自身のブログ[2]で、日本社会の外国人に対する閉鎖性について、強い懸念を示され ている。このブログを読み、またここで紹介されていたアイヴァン・ホールの本「知の鎖国」[3]を読んだことで、私には多様性の本質が見えてきたように思った。それは「自分に は理解できないものをひとまずは『優れたものだ』と仮定を置いて考えること」である。[4]

 私にも女性や外国人の部下がいたが、彼ら、彼女らの考えが(特に、「なぜそのような考 えになるのか」が)直ちには理解できないことが多くあったように思う。もし、自分の理 解できる範囲で部下の提案を評価するとなれば、自分と同じバックグラウンド、例えば日本人男性の提案を、無意識に「優れたもの」としていなかっただろうか。そのために、自分では意識していなくても結果的に差別や閉鎖性につながっていなかっただろうか。

 多様なバックグラウンドはイノベーションの源泉である。先進的な企業は社会的責任の 観点からではなく、競争力のための戦略として多様性を捉え始めている[5]。女性、外国人、 その他様々なバックグラウンドを持つ人々との交流を通して、より広い視野で社会に貢献 していきたいと思う。

参考
[1] Michael Sandel, "Justice . Episode 09, Arguing Affirmative Action"
   http://www.justiceharvard.org/2011/02/episode-09/
[2] Hisashi Kobayashi, "Concerns about the insularity of Japan's universities, poor performance of Japanese students, and weakening competitiveness of Japanese 7/7/2011 c2011 Hiroshi Maruyama industry
   http://hp.hisashikobayashi.com/concerns-about-the-insularity-of-japan%E2%80%99s-universities-poor-performance-of-japanese-students-and-weakening-competitiveness-of-japanese-industry/
[3] アイヴァン・ホール, 知の鎖国—外国人を排除する日本の知識人産業
   ISBN-13: 978-4620312156, 毎日新聞社, 1998.
[4] 丸山宏、ブログ「知の鎖国」
   http://japan.cnet.com/blog/maruyama/2010/04/15/entry_27039118/
[5] Ernst & Young, "The new global mindset: Driving innovation through diverse perspectives

 

第一回 データで見せる日本の女性研究者の実像

情報・システム研究機構 郷 通子 

 2010年7月、日米女性研究者のシンポジウム(Japan-US Symposium 2010 -Connections-) が国立女性教育会館で行われました。テーマは「女性研究者のエンパワーメントと新領域創成に向けた日米シンポジウム」(Connections: Bringing Together the Next Generation of Women Leaders in Science, Technology, Engineering and Mathematics)で、日本とアメリカから各15名(総計:女性29名、男性1名)の研究者が招かれ、基調講演、パネルディスカッション、分科会、まとめの討論が極めて濃密度に行われました1~3) 。米国の参加者から、「共同研究を組みたくても、日本の女性研究者のデータベースがないため相手を探せない」との意見があり、全体会議での議論になりました。国内の女性研究者どうしも、分野が違うと知り合う機会がなく、情報交換や分野融合研究の機会がなかったことが話題となりました。折しも、日米シンポジウムの直前に行われたプレ会議において、「女性研究者の見える化」を図るために、情報学研究所の新井紀子さんから「女性研究者総覧作成」の提案がなされたことはとてもタイムリーでした。

 早速、堀田凱樹機構長(当時)に機構長裁量経費からの支出をお願いして、本機構らしい男女共同参画の一環として、女性研究者総覧作成事業「羽ばたけ 日本の女性研究者」を開始しました。新井さんが中心となって研究開発を行ったResearchmapに登録されている女性研究者の情報だけを集めて発信(日本語・英語)し、「女性研究者の見える化」を実現します。

 JSTの協力で、今回Researchmapに性別欄を設け、女性研究者の情報を自動収集できる準備が整いました。研究分野に従って、分野ごとに自動分類して、女性研究者のリストを表示します。性別を公開しても構わないという女性研究者が約100人を超えた時点で、「羽ばたけ 女性研究者」のサイトをオープンする予定です。

 是非、多くの女性研究者に登録していただきたいと願っています。この夏頃には、日本全体の女性研究者に関する情報の発信により、わが国の男女共同参画の推進に寄与できまますように考えています。

参考
1) 国立女性教育会館 平成22年度事報告
 「女性研究者のエンパワーメントと新領域創成に向けた日米シンポジウム」
 http://www.nwec.jp/jp/program/invite/2010/page04Ms.html
2) 郷 通子:「女性研究者のエンパワーと活躍に向けて」
 平成22年度「男女共同参画国際シンポジウム」報告書 山形大学
 http://www.yamagata-u.ac.jp/kenkyu/danjo/
3) 郷 通子:「女性研究者が輝くために」
 会誌「表面科学」2011年7月号
 http://www.sssj.org/jsssj/kaishi_index.html